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サブカル大蔵経152 『建築業者』(エクスナレッジ)

 私はお寺に住んでいるのですが、三年前から雨漏りしています。雨が降り続くと、壁をつたってか、床の一部にじわーっと水が滲み出てくるのです。業者さんに診てもらいましたが、雨漏りはなかなか原因がつかめないらしいです。

 業者さんの話を聞いても専門用語や見積もり内容の言葉もまったくわかりません。うなずきながらお任せしていたら、見積もりが高額になったので現在工事の計画はストップしています。

 そんな時に出会った本です。それぞれの職人さんのインタビュー集です。建築という事象に対してこれだけのさまざまな職種があるんだと驚き、その専門知に感銘しました。そして業者さんごとの、ヒエラルキーや駆け引きがあること、どの方も俯瞰的に自身の仕事の意味を見つめた上でその矜恃が伝わる内容でした。

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〈非破壊検査〉いかに彼らに気分よく補修って話をしてもらうかを考えていくわけです。それがこの仕事の1番大切なところ。非常に人間臭い仕事なんですよ。p.34

 業者さんに頼むことを専門とする業者さんがいるんだ…。たしかに人間の仕事。

〈解体工〉頑丈に作ってあれば、私たちも安心して壊すことができるんです。昔の木造骨組みがグラグラだから壊しにくいですね。ただ解体屋としたそこが面白くもあったりするわけで…(笑)解体仕事は神経を使いますよ。作る側の職人は楽でいいよなって(笑)いつも思います。これほど周りに気を使う仕事はないと言ってもいい位常に周囲に気をつかっています。p.46 

 漫画のゲンさんで解体屋の存在は知っていたが、かなり哲学的な言葉に引き込まれます。作ることだけじゃない世界。作ることと壊すことの関係性。非常に示唆的。無常のお手伝い・完成。

〈防水工〉基本的な止め方としてはまず水が染みている部分のコンクリートを削りとってその出所を突き止める。次に水に反応して膨張する発泡ウレタンをでどころに注入する。後はその上に止水セメントを持って防水剤塗れば完了です。p.76

 こういう神様みたいな方は地方出張してくれるのでしょうか…。

〈板金工〉屋根周りの板金であれば、基本的には水に流れたいように流れさせてやる。これが大事なんです。水が自然に流れない設計はいつか必ず漏水を起こします。こう言うと偉そうに聞こえますが、はめ殺しの天窓だったら、建築家の先生には窓枠の大きさだけを書いてもらえればそれで良い後は自分が絶対漏らさないように収めます。p.83

 雨漏りしてから、屋根や壁や窓枠の水の行方を調べています。水の流れは何か建物の健康のバロメーターのような気がしてます。流れさせる。止まると澱む。

〈給排水設備〉おそらく設備工事って建築現場では非常に下に見られている職種なんですよ。現場にはなぜか自然に出来上がった職人のランクみたいなものがあるんです。大工がいて、左官がいて、、それから鉄筋工、型枠行がいて設備はずっと下下から数えた方が早いですね。

 業者間でそんな順列があるんですね…。

たまにあるんです。今回の配管はぴたっとおさまったなって言う会心の出来は。でも端から見ればそんなことわからないし、できて当たり前の世界です。なんですけど大工なら100本のうち1本くらい釘打ち損ねても致命的な問題にはならないでしょう。でも給排水設備はたった1本の配管ミスしただけでもアウトで、施主から人殺しを見るような顔で睨まれる。ただ設備屋の唯一のプライドとでも言うのかな、…個人的には、我々が1本1本心臓から血管をつないでいくように、建物を血の通ったものにしているんだと言う思いね。それがあるから何とか40年近くこの仕事やって来れたような気がしています。褒められた事は1度もないんだけど。p.91

 たしかにできて当たり前みたいな態度をこちらもしていました…。そして、派手ではない仕事こそが、重要なことに気づいていませんでした。すべて大事な役割なんだなぁ。設備の仕事は建物の家屋の血管…!

〈電気設備〉いろんなところに穴を開けてはみんなに恨まれていますから。立場は一番弱いと思いますよ。電気は最後の職種ですから。建築の歴史をたどってみると現場に入ってきたの電気が1番新しいんです。新入りだからいつまでたっても他の職人さんに頭が上がりません。しかも、仕事は増える一方。全く良い仕事を選んだもんですよ笑p.97

 電気は建築において一番の新参者か…。そういう見方はありませんでしたが、なるほど…。たしかにこちらも軽く頼む感じはあったかも…。しかし今や現代建築の要かもしれません。

〈石工〉個性的な現場が少なくなってきたと印象持っています。ゴージャスだけど個性的ではない。p.103

 以前、お寺に大理石の床面を頼んだ時、業者さんがそう言ってた記憶があります。なかなか思い切った注文する人いないと。

〈ガラス工〉そうそう最近のガラス割れなくなったと思いません?窓ガラスを交換する仕事もめっきり減りました、特に学校のガラス。ガラス自体の性能が良くなったこともあるでしょうが今の子供はずいぶんおとなしくなりましたからね。p.119

 ガラスという存在…。窓ガラスと校内暴力のまさかの相関関係^_^

〈突き板屋〉1番いいのは、もっとみんながゆるーくなることです。ジーンズのように、経年劣化を楽しむ感覚。p.150

 なるほどなぁ。経年劣化を楽しむ、か。なぜできないのか。斬新な視点です…。

〈林業〉環境守ろうだの言っている口先だけの人はほとんど使えません。p.174

 林という現場からの言霊。環境という概念が人間の都合に立った考えなのを見透かされたか。

〈瓦葺き〉京都に行ってから再認識したのですが、日本の建築の歴史って、修繕の歴史でもあるんです。p.222

 北海道はすぐ新築。しかし、日本の建築は修繕の歴史か…。ちなみに「修繕」という言葉は、本宮ひろし『硬派銀次郎』『山崎銀次郎』で覚えました。


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