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サブカル大蔵経284 スズキナオ『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)

私にとってすごい本に出逢えました。期待が大きい分、恐る恐る読み進めていくと、ひたすら丁寧に通り過ぎていくであろう風景に連れて行ってくれる。そして後半、父親との人形町呑みの回から、としまえんの周りをまわる回、池袋から浅草まで夜中に歩く回までのグルーブ感がすごくて、なんというか、新しい紀行作家というか、文豪が現れた瞬間に立ち会った気分になりました。これは機内誌に文章が載るの間違いないでしょう。パリッコさんとの酒の穴コンビでJALとANAの両方を制覇して欲しい。

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さっきまで隣にいた人がまったく関係ない人になって消えていくその瞬間がいつも不思議だ。p.24

 深夜バスが『漂流教室』に感じられる。

もしかしたらスナックといえば昼!という時代さえ来るかもしれない。p.54

 文化の転換点を明らかにしたルポ

こんなふうにして、時間をかけ、いろんな人を介してやっと銭湯に広告が入る。この遠回り感が面白いんじゃないかという気がする。p.74

 この項も、本書の白眉だと思いました。何か昭和と令和がつながった奇跡を見ているような。現実なんですよね?これ…。

よそは生野菜が多いけど、うちは炒め野菜で、p.99

 福岡の今尾バーガー。昔家で食べたホットドックに似ている。キャベツの細切りを炒めてあった。懐かしい。

お金ない時、お母さんに食べさせてもらった。とかって言うて、そういう人がたくさんいて、いっぱい戻ってくるんですよ。p.132

 この廃バスラーメン店のかたちも、近所に昔あって、夜、幾度か親に連れてってもらった。自分の記憶から消えかかっていたのだが、スズキさんのおかげで再点灯しました。

今、私の荷物の中に合計何枚のたこせんがあるのだろう。1000枚くらいあるかもしれない。p.143

 なんか、バイバインのような^_^

とりあえず「ゴリラでも見に行こう!」ということに。p.244

 動物呑み…。地元の旭山動物園でもやってみようかな。

父「この辺で昼にタバコが吸えて、ビール2本くらい飲める店は他にあんまりないんだよ。」/母から「お父さんがいつになく酔って帰ってきて、その辺のものをなぎ倒していたよ。」p.261.264

 お父さん、幸せだったんでしょうねぇ…

ハナイさんは万人にとっては偉大な人物じゃないかもしれないけど、友達なわけだから、私にとっては歴史上の人物のごとく貴重な存在である。そんな人が生きて目の前で史跡を案内してくれるのだ。なんで今までやらなかったんだろう。p.275

 私も仲間に昔住んでいたところを案内してもらうのが好きです。でも、スズキさんほど相手へのリスペクトなかったなぁ。相手を偉人と捉えるとさらに心から楽しめますね。

自分が知らなかった町に足を踏み出すこの瞬間が楽しい。p.278

 もう、この一言に尽きます。

私が知らなかったこの町は、こうしていつもここにあったということがしみじみ実感できた。私がいなかっただけだったのだ。p.286

 昨年初めて入った近所のドライブインが、ほぼ私と同じ年齢でした。その時同じことを思いました。それにしても、この気持ちを文章で表現した方は、スズキさんが史上初めてではないかと思いました。

私には入園する権利がないのだ。p.288

 権利がないから、広がっていく旅。

自分が長い間、最先端の何かではなく、当たり前すぎてみんなが素通りしていくものや、忘れられたようにひっそりとあるもの…、p.321

 近所のこういう所に、これから足を運んで行きたいです。早速今日近くの古いお蕎麦屋さんに行ってきました。注文した冷やしたぬきに、揚げたての揚げ玉を入れてくれたこと、最後にコーヒーを出してくれたおばちゃんの笑顔に、店の歴史を体感しました。

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