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サブカル大蔵経313長谷川憲一『ヘルボックス』(影書房)

本を作るのは、著者や編集者、出版社だけではない。

〈印刷〉という貴重な立場からの至言。

出版社、印刷所が分離したのは、たかだかここ100年ばかりのことである。印刷業が出版業の下請け化した事情についてはいずれまとめるつもりであるが、印刷製本部門に本を作っている名誉と自負を認めないと主張する人が現れた事は、印刷に関わる一員として残念でならない。p.13

 書店、出版社、印刷所が細分化していく中でできあがったヒエラルキー。出版社の下請け…。本は、誰が作るのか。

印刷屋が出版社に対して感じるコンプレックスは、単に仕事を頂き、お金を頂くお得意様であることを通り越して異常である。入稿の遅れ、原稿の訂正は日常茶飯事で、一日が24時間では到底足りない位である。設計図ができあがらないまま、建築建築を始めて落成式に間に合わせるような無茶苦茶な話であるが、著者も、編集者も一向に平気である。何とか苦労して間に合わせても、よし、間に合った。でおしまい。それだけなら我慢もするが、今度はそのスピードが前提になってことが進む。p.125

地獄…。著者も編集も…。本とは何か物理的観点からの再考察に溢れる本書。もっとこの方の文章が読みたい。

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読者にとって安い文庫本は一見結構なように見えるが、文庫本の安値が親本の単行本を絶版に追い込み、書籍全般の適正価格を下方へ引きずっていることは明白であり、書籍出版の活性化を阻害しているとも言えるのである。p.19

 文庫になるまで待つか…と思うことも。すみません・・。単行本の時に買います。

著者印税10%、印刷製本30%、編集営業出版社30%、取次書店流通30%p.20

 こう見ると、著者のもらえるお金の割合って少ないんですね・・。もちろん、そのほかの3つは関わる人数が膨大なのでしょうが。

著者名にふりがなをつけている出版社がある。各社これを見習ってもらいたい。p.48

 至言です。私いつも、わからなくて、奥付を見ます。それで振り仮名ない場合は検索しますが、フリガナつけて欲しいです。

そのしわ寄せは印刷代に来る。/自分で仕事を作れない受注産業の悲しさ。p.71

 構造的なこの問題。普段お世話になっている「プリントパック」さんなんかは、新たな仕事を作ろうと、印刷の価値を啓蒙されてます。

活版インクの香り。香りも匂いも感じられないオフセットインク。活版印刷がプレスであるとするならば、オフセット印刷はプリントである。p.84

 昔よくお邪魔していた印刷所の記憶は、たしかに<香り>でした。

『印刷の父グーテンベルク』8000円。発行部数は2000部にすれば著者訳者の印税出版社の取り分、流通段階の取り分、いずれもその手取り金額をほぼ変わらないで定価を半分の4000円にすることが可能になる。p.144

 この観点はなかったです…。若い人に読んで欲しい本は、出版社が頑張って刷り数を増やして定価を下げて欲しいとの提言。

近ごろ大袈裟にいえば人は「カラオケ」で唄うように「自費出版」をする。「自費出版」=「私家版」と捉える向きも多いようであるが、この2者は似て非なるものである。/私は「出版」の必須条件として編集者の目を通して作られた本でなければならないと思っている。冷徹な編集者の目をくぐらない「自費出版」は「出版」に値するのか、「自分の本は自社から出版しない」と言う出版界の慣習は、編集者の目が甘くなる弊を慮ってのことであろう。p.151

 <編集者の目>に、出版社の個性が浮かび上がると、最近思うようになりました。自分の本は自社から出版しないという矜持、なるほどです。

週刊誌も印刷屋の犠牲の上に成り立っているものです。印刷屋の方から見ると週刊誌は定価で売っても赤字になるような定価が付いています。ただ広告収入が莫大です。p.201

 単行本にも広告入れたらいいのにと思うんですが…。

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