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サブカル大蔵経564内田樹『直感はわりと正しい』(朝日文庫)

読んでいるうちに、昨年逝去された橋本治さんの代わりに書いてくれているように感じました。何かおかしいと感じることを一緒に考えてくれる心意気と安心感。

そして、ご本人が以前ブログで書かれた著作権フリー宣言が、私みたいに抜き書きして引用・紹介する人間には、本当に安心感しかありません。実感しました。

ただ「AERA」連載当時の「大市民」という題名は、柳沢きみおの「美味し!」の作品が浮かびました。コラボしないのかな。

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どんな組織でも現場のモラルを高めるのは、そういう「ちょっと余計な仕事を厭わない」人である。p.23

 私の家族で言えば、母の動きがそれに当たると感じました。身近な先生です。

「独力で行えること以上のことを自分に課さない」という自制であった。p.39

 著者が吉本隆明から学んだこと。私も、山口文憲『読ませる技術』に「うまく書けそうもないことを書いてはいけません」と書いてあったことを心に置いています。

中国では日本の民主党政権誕生が歓迎されているらしい。理由は簡単で、「民主党は田中派」だからである。p.79

 鳩山由紀夫、小沢一郎、岡田克也、田中秀征。それを継いで、枝野幸男は自分たちこそ保守だと宣言したのかな。

(追記)そして、田中派最後のプリンス・無敗の男・中村喜四郎が立憲民主党入りし、野党をまとめる汗をかいている。中村が首相でもいいのでは?

「ではこれから廃炉ビジネスで儲けさせてもらおう」p.92

 脱原発というジャングルを抜けたら、アメリカ主導の形が待っていた意外な結末の未来予想。原発輸入も脱原発も結局、アメリカ主導でしか動かないのか。アメリカといえばその先は小泉純一郎。最近の動きもリンクしてるのでしょうか。

テレビに出てくる論客たちは自分に理解できない話にまったく反応しない。p.137

 専門家も人も、自分を縛られた人ほど、反応をしなくなるような気がします。

私は藩の復活そのもののには賛成である。p.181

 廃県置藩。藩に戻ると、どうなるか。

(中田考先生は)資産はすべからく金貨に換えるべしと説かれている。お訊ねしたところ「邪魔になるから」と言う思いがけないお答えをいただいた。ふつう「カネはいくらあっても邪魔にならない」と言われる。/金貨ではそれができない。重たいからである。もしものときに全財産を懐にねじ込んで身ひとつで逃げようとするときでも、金なら10キロ(約4500万円)が上限だ。それでも走っているうちに腰にこたえてうらめしくなるだろう。そのあたりが人間に所有できる財産の上限である。p.231

 イスラム的分配思想の達見。まさに〈イスラムが効く〉。そして電子マネーや電子通貨が何故危ういのかが、あらためて伝わりました。目に見えないお金はお金か?

もう成長はない。だったら、その状況に適応して、いかにして「縮みゆく日本」を穏やかにかつ愉快に生きるか、その方策について「知恵を出し合う」時期を私たちを迎えているのではないか。p.274

 北欧などの特集は、そのあらわれ?

2020年の東京オリンピック招致のためのキャンペーンが始まっているが、そのコピーがひどいことになっている。たぶん広告代理店に丸投げして起案したものだろうが「ひどい」という以外に適当な形容を見出せない。長いものだが、例えばこんなことが書いてある。

「このままだとこの国は世界から忘れられてしまうかもしれない。今何かをしなければ、この国の未来や子供たちの自信を奪うことになるかもしれない。誇るべきものを誇るために、勝つべきものを勝ちとろう。未来のために。東京にオリンピックを呼ぶのではない。ニッポンに呼ぶのだ。オリンピックは夢をくれる。そして力をくれる。経済に力をくれる。仕事を作る。それが未来を作る今になる。」

驚くべきことだが、この長い文章の中に、世界のアスリートに向けて発せられたメッセージが一言もない。あるのは、オリンピックを「レバレッジ」にして「一山あてたい」と言う内向きのメッセージだけである。この「一山取る」プロジェクトに気乗りがしないと言う国民は、「目的を持たない」人間、「挑戦することから逃げる」人間、「未来を閉じる」人間だと言うその主義だけである。p.287

 五輪開催か中止か、その前に本文に出会えて良かったです。先日、本社ビルを売却した電通も、この切実なコピーは、仕事をくれ!という本心だったのでしょうか。

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