ピッチ大会優勝時、あえてやらなかった10のこと【ワークシート付き】
Nice to teeth you! Oh my teeth CEOのMakotoです。
▼読んでくださった方の感想
今朝の公開後、早速うれしい感想をいただけたので、紹介させてください。
▼とりあえずピッチ資料が見てみたい方へ
Nice to teeth you!
Oh my teethのMakotoです。今年2月に開催された、ICCサミット FUKUOKA 2022「D2C&サブスク カタパルト」にて念願の優勝を果たすことができました!
▲当日のピッチ
僕がICCに出るのは今回が2度目。前回5位からのリベンジ優勝でした。
ここからは、僕が優勝のために、「あえてやらなかったこと」を10個、紹介していきます。
1. 「優勝」をKPIにしない
いきなり矛盾するようですが、僕は「優勝」をKPI(=重要指標)にしませんでした。
もちろん、大会に出場するからには優勝するつもりで準備を進めます。
ただ、優勝に固執するのをやめたのです。
優勝にこだわりすぎると、他の参加者に「勝ちたい」という思いが強くなったり、小手先のテクニックに走るあまり、大目的である「事業成長」から外れるようなピッチになってしまいます。
だから僕は、優勝を目指しつつも、重要な別のKPIを設定しました。
優勝とは別のKPIを設定することで、漫然と「優勝」を目指すより、具体的に「あの審査員に応援したいと思ってもらうにはどう伝えたらいいか」を考えられるようになりました。
2. すべて自分でやらない
ピッチの準備にあたり、ざっくり以下のようなToDoを書き出しました。
ピッチにはこうした多くの準備が必要ですが、時間は限られています。
そこで、これらのToDoを、①自分がやった方がいいもの、②誰かに任せた方がいいものに分けました。
特に凝り性の僕は、ピッチ研究や素材集めが趣味みたいなものなので、やり出したら止まりません。そういったものもメンバーにお任せしました。
余談ですが、ICCカタパルトで優勝経験もあるWAmazingの加藤さんは、デザインは外注し、得意のストーリー作りに注力されたそう。
ただし、あくまでピッチは創業者の仕事だと思っています。練習やスライド作りに付き合ってもらうなど、メンバーの業務時間を奪うことは一切しないように気をつけました。(そもそもメンバーにフィードバックを求めない理由は「6. チームメンバーにアドバイスを求めない」で解説します)
3. 「自分の感情」を先行させない
ピッチの構成作りで重視したのは「審査員の感情の動き」です。
つい「自分が語りたいこと」ばかりを盛り込んでしまいがちです。しかしピッチは、当然ながら「審査員」に向けて訴えます。
その熱量と同時に、「審査員はどう感じるか?」を、つぶさに客観視しながら構成を練ることが重要です。
さらに大切なのは、あなたが「どう感じてほしいか?」を考えることです。審査員の感情を想像できるか否かが、勝敗を決すると言っても過言ではありません。
この、「審査員の感情の動き」を細かく整理するために、僕はスプレッドシートで整理して、必要なコンテンツを考えていきました。
これは、縦に感情の流れ、横にコンテンツの要素を並べ、ひと目で感情の動きが把握できるもの。
アジェンダに沿って各パートごとに審査員の感情を丁寧に分析しながら、発言やスライドを修正することができました。
以下は感情の動きの部分を抜粋したもの。
4. パート間の接続を気にしない
アテンション → 課題 → 解決策......と、アジェンダに沿って語り進める中で、話の移り変わりを丁寧につなぐことをやめました。
丁寧につなごうとすることで、かえって単調なピッチになり、審査員が飽きるのを避けるためです。
そのため僕は、あえて話の前後関係を気にせず、要所要所にパワーワードを散りばめるようにしました。
下記は実際に組み込んだパワーワードの一部です。
特に今回のICCは7分と、一般的に3〜5分で行われるピッチにしては長めの設定。それに甘んじてダラダラと説明しすぎず、パワーワードでアテンションを加えることを意識しました。
5. 「シンプルさ」にこだわらない
ピッチやプレゼンでは、1スライド=1メッセージなど、「端的に伝える」ことを意識する人も多いと思います。
ただ、シンプルに固執しすぎて、相手の納得感が低くなってしまうのは避けたいですよね。
特に今回の大会では、質疑応答の時間がありませんでした。
なのでピッチ後に審査員の「?」を発生させないため、あえてシンプルにしすぎない工夫をしました。
たとえば、Oh my teethの強みである「挫折させない仕組み」は、そもそもマウスピース矯正がどんなものなのかを理解できていないとイメージがつかみづらい。
そこで、「そもそもマウスピース矯正とは?」「これまでどこに課題があったのか?」を説明するスライドを加えました。
6. チームメンバーにアドバイスを求めない
本番6日前からは、とにかく練習と微調整の繰り返し。
スライドや話す内容のパターンをA/Bテストのように数多く準備し、ひたすら画面収録してYouTubeにアップしていきました。
たくさんの人に動画を見てもらいましたが、自分や事業をよく知るチームメンバーからのアドバイスは求めないようにしました。
むしろ、自分のサービスのことも、自分自身のこともよく知らない人に見てもらうことで、つねに客観的なフィードバックを得たかったからです。
7. 型に当てはめない
テンプレート化された資料をもとに、ピッチやプレゼンテーションの準備をする人も多いと思います。
また、自分ではそんなつもりはなくても、優勝者のピッチなどを研究していくうちに、いつの間にか、型に当てはめたようなピッチになってしまうこともあるでしょう。
しかし、型にはめていくと、知らず知らずのうちに「らしさ」を失ったピッチになっていることがあります。
実は僕も今回、その状態に陥っていました。
気づくことができたのは、本番5日前。僕のピッチを聞いた、デロイトトーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬さんから、以下のようなフィードバックをもらったのです。
「自分のピッチの型」について、正直これまで考えたことがなかったんです。
斉藤さんのフィードバックをもとに、「エモ×ロジカル(熱いんだけど打算的)」をピッチのテーマに掲げました。
よくよく考えると、このテーマはOh my teethブランドのキャラクターそのものだったんです。
8. 共感を求めない
今回のピッチ大会では、20名以上もの審査員に自社サービスの良さをわかってもらう必要があるため、つい「共感」を得られそうな話やスライドを作りがちです。
僕も今回の準備をするにあたり、共感を得られそうな文言を取り入れていました。
しかし実は、「共感」させてはいけないのです。その理由を、具体例を踏まえて説明していきます。
たとえば次のスライドは、もともと今回のピッチに向けて、“つかみ”と“クロージング”として用意していたフレーズでした。
●つかみ(Before)
●クロージング(Before)
一見、キャッチーで多くの人に共感を得られそうですが、大きな欠点に気づかされました。
共感を意識しすぎて、「ピッチのためのフレーズ」を作ってしまっていたのです。
その結果、このような事態に陥ってしまっていました。
悩んだ末、それぞれ次のように変えました。
●つかみ(After)
●クロージング(After)
何が変わったのでしょうか。
それは、「借り物の言葉」から「自分たちの言葉」になったことです。
こうしたことで、結果的にピッチを見てくれた審査員からも「西野さんの根から出る本当に歯科業界を変えたいという思いが伝わった」「応援したいと思った」というコメントを得られました。
フレーズを考える上で参考にしたのは、『100%共感プレゼン』著者、三輪開人さんが紹介されていた「3つの物語」や、デロイト トーマツ ベンチャーサポートの斎藤祐馬さんが提唱されている「my story -> our story -> now story」でした。
以下は僕のピッチにおける「3つの物語」です。
クロージングでは、Oh my teethの原点に立ち返りました。
ピッチのために作った“借り物の言葉”ではなく、日頃から使っている言葉・フレーズを使うことで、結果的に審査員の共感を引き出せたのではないかと感じています。
9. 資料もプロダクトも「配布しない」
こんな経験はありませんか?
これはピッチでも起こり得ること。審査員がプロダクトに気を取られて、こちらの話への集中を阻害してしまうのです。
「プロダクトを配布しない」のは、テクニックとして有効です。
とはいえ僕も、マウスピースはぜひ審査員の手に取ってもらいたいと思っていました。
(ICC代表の小林さんの歯型を配れば、ひと笑いとれると思っていたこともあり!)
では、どうしたのか。
実際にキットを開けてもらう「タイミング」を工夫しました。
ピッチがはじまる直前に、司会者の方を通じて「まだケースは開けずに、プレゼン中に開けてご覧ください」とお知らせしたんです。
(ICC運営チームの皆さん、ご協力ありがとうございました!)
そしてマウスピースを手に取ってもらうときは、重要な話はせず、ライトな話題でつなぎました。そして、ピッチに戻るときに意図的に視線をこちらへ移してもらうことを意識しました。
審査委員がマウスピースケースから取り出して、無事にひと笑いもらえたことを確認したところで「はい、マウスピース矯正で重要なこと…」と次の話題に移ったのです。
プロダクトでサービスイメージを膨らませつつ、大事なことが伝わらないリスクを回避しました。
▲プロダクトを紹介したのは2:32あたりから。ICC代表、小林さんの歯型のマウスピースを配り「どうぞ最終日の記念にお持ち帰りください」と話しました(笑)
10. 流暢に話さない
実は、僕は本番でつかみを言い間違えました。
と言うところ、
と途中まで言ってしまい、「苦手」と言い直しました。
(ここまで「つかみは重要」という話をしておきながら、まさかの本番で失敗してしまったんです……)
でも最近VCの方から、こう言われました。
たしかに、最初から最後まで淀みなくピッチを終わらせるよりも、ちょっとつまずく部分があったほうが、人間味や情熱が伝わるのかもしれません。
特に今回のピッチはテーマに「エモ」要素も掲げていたので、これは思いがけない効果でした。
とはいえ、ピッチでわざと間違ったり噛んだりは流石にできないので(誰もそんな大勝負に出ないとは思いますが 笑)
たとえば「ここは当日のパッションでいく!」みたいなパートを決めておき、そこはいっそのことスライドノート(カンペ)すら消しておく、というのもおすすめです。
本番直前にやらなかったこと
練習しない
本番直前は、不安になるものですが練習は一切しませんでした。
ギリギリまで練習しているとスライドも延々といじりたくなり、かえってピッチの安定性を失います。
僕は直前練習をしない代わりに、他の登壇者のピッチをひたすら聞き、「自分のつかみと似通っていないか?」などをチェックしていました。
実は、万が一、他の登壇者と印象がかぶっていたときのため、事前にいくつかのパターンを用意しておいたのです。
これによって、かなり安心感を持って本番に臨むことができました。
ピッチは相対評価。事前準備によって、当日に「自分以外の要素」で印象ダウンしてしまう恐れをなくすことができる。これから出場する人は、ぜひ意識して損はないと思います。
アプリを起動しない
Keynote(プレゼンソフト)以外のすべてのアプリを終了させ、Wi-FiもOFFに。
ピッチ中にアプリの通知が来てしまったり、アプリのせいでパソコンがフリーズしてしまったりしたら、ここまでの努力が水の泡です。
わずか「7分」されど...
たくさんの方々のご協力のおかげで、僕はICCでのリベンジ優勝を果たせました。
ここでピッチ準備に協力いただいたすべての方に、改めて感謝したいです。本当にありがとうございました。
ICCで優勝したことで、今後の店舗展開につながるお話や、出資を含めた事業連携のお話もいただけて、7分間のピッチに2週間を投資した甲斐があったなと心から思いました。
メンバーとOh my teethのビジョンを再共有できたのも、ピッチに参加してよかったことの一つです。
まさに僕のことですが、普段からメンバーに熱くビジョンを語るとか、そういうことが苦手なタイプの起業家は一定数いると思います。
そのような人にこそ、ピッチ大会に出ることをおすすめします。
ピッチをメンバーが見ることで、ビジョンや会社の向かっている先を再認識してもらえます。僕自身、出場したことでメンバーのモチベーション向上にもつながったと強く実感しています。
お世話になった方
●ICCパートナーズ代表 小林 雅 さん
「デモや裏側推しを丁寧に話すのがおもしろいと思うよ」と、客観的なアドバイスやピッチ資料に対する具体的なフィードバックを多くいただいただけでなく、実際にOh my teethでマウスピース矯正を開始していただいたりと感謝してもしきれません。
▷Industry Co-Creation(ICC)
●デロイトトーマツベンチャーサポート代表 斎藤祐馬 さん
累計で1,700社以上のピッチを見てきた斎藤さん。無茶苦茶に無理を言って過密スケジュールの合間の早朝15分や22時といった時間帯を確保していただき、構成だけでなく立ち振る舞いや口調についても丁寧にフィードバックいただきました。その後の投資家ピッチにも活きており、一生モノの技術を教えていただいたような気がしています。
▷Twitter
●認定NPO法人 e-Education代表 三輪開人 さん
直前のワークショップにて「つかみ」を伝授いただきました。さらに直前に撮影したリハーサル動画に対して計3,000文字以上のFBをいただき、直前の半ば小手先のテクニックに走りかけていた僕にとってよい喝になりました。
▷Twitter
●W venturesシニアインベストメントマネージャー 佐藤直紀 さん
元Onlab(Open Network Lab)のメンター。主にVC視点から数字の見せ方やクロージングについてアドバイスいただきました。優勝後、「直前のピッチフィードバックで1をお伝えしたら10以上改善されてて、いつも通りやり切る力が凄過ぎるチーム」とツイートしてくださりうれしかったです!
▷Twitter
●WAmazing代表 加藤史子 さん
序盤のフリからの回収までの距離がやや長く感じる点や、スライドデザインに対する気づきなど「さすがはピッチを極めた方だ!」というフィードバックと同時に「出だしすごく良いと思います。」をいただけたのは相当な自信につながりました。
▷Twitter
●東大発バイオテック ジェリクル代表 増井公祐 さん
ICC KYOTO 2021「リアルテックカタパルト」の優勝者。たまたまICCのウェルカムディナーで一緒の席になったことがきっかけで、図々しくもアドバイスをいただきました。直前にフォーカスした細かいテクニックなども全部「なるほど!」と思い、本文の通りできる限り取り入れた。リアルタイムで見てくださっており、優勝後に真っ先に駆けつけてくれたのも泣きそうになりましたw
▷Twitter
●ミナカラ創業者 喜納信也 さん
ワークスアプリケーションズの先輩であり、ヘルスケアスタートアップの先輩でもある喜納さんには、実際に投資家に数多のピッチをしてきた経験から、構成に淀みがないかなど、全体の流れをフィードバックいただきました。
▷Twitter
●theLetter代表 濱本 至 さん
Onlab(アクセラレータプログラム)同期。今回のnoteの下書きも真っ先にFBもらったり、いつも勝手に頼らせていただいています。「文章」の世界にいるからなのか常に読者視点のコメントに「毎回納得!」という感じです。
▷Twitter
●StartPass: 経営支援プラットフォーム
もともとはWAmazing加藤さんの『ピッチイベント、勝利の要諦』というウェビナーきっかけで加入させていただきました。今では、資金調達について相談に乗っていただいたり、VCさんを紹介していただいたりとお世話になっています。
▷StartPass(登録すれば僕が視聴したウェビナーのアーカイブも見れます!)
●最後になんといってもメンバー
ここまでピッチの準備について散々書いてきましたが、どこまでいっても事業に魅力がなければ評価されません。圧倒的なユーザー体験、システム基盤、医療体制、連携クリニック数、これらの実績をコツコツ作り込んできたメンバーに感謝です。引き続き未来の歯科体験を創っていきましょう🚀
おまけ
感情トレースシート
ピッチ準備で活用した『感情トレースシート』を配布します。
ちなみに今回のnoteも、この感情トレースシートに当てはめて書きました。(例として載せていますのでご参考までに)
※ネーミングは黒澤友貴さんの「マーケティングトレースワークシート」を意識させていただきましたw
おすすめガジェット
ガジェット好きとして、ピッチ時のおすすめアイテムを1つだけ紹介させてください。
身振り手振りしながらスライド送りができるアレです。手に持つタイプが一般的ですが、三輪さんのピッチを見てシンプルに「かっこいい!」と思い、フィンガータイプで探しました。決め手は「Bluetooth対応」。USBレシーバー(それもたいていUSB-Aなので最近のMacだと変換アダプタが必要)を使って接続するタイプが多い中珍しい。肝心の性能も(少なくとも僕の環境では)スイッチを入れたら秒でペアリングされ、遅延もほぼなく安定しています。さすがキヤノン。
We Are Hiring!
「ピッチのフィードバックがほしい」「感情トレースシートの使い方がわからない!」などあればお気軽にDMください。
▷Twitter
そして、今回のnoteですこしでもOh my teethという会社やプロダクトに興味を持ってくださった方。我々といっしょに、未来の歯科体験を創りませんか?
▷まずは話を聞いてみたい
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