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チューリップ柄の傘を買った、モテたくて。

今日の東京は雨だが、私は傘を持っていない。
家に傘を忘れたというわけではなく、そもそも家に傘が一本もないのだ。

数週間前に傘をなくした。数年以上使っていた、お気に入りの傘だ。高価なものではなかったが、自分の手に馴染みがよく、まさに雨の日のおともといえる傘だった。そんな傘をなくすなんて、その日の私はどうかしていたのだろう。

その日からというもの、私は出かけるたびに傘売り場に立ち寄り、新たなおともとなる傘を探した。目についた傘があれば広げ、全身鏡の前に立ち、その傘が自分に合っているかどうか、念入りに確認した。

中々気に入る傘を見つけられない私は、傘をなくしてから今日までの雨降りの日には、雨に打たれながら外を歩いた。間に合わせで買った傘をさしたくはなかった。

自分のこういう性格が、自分の首を絞めるているのかなぁと思った。

ただ、そんな私を守り支えるエッセイがある。
向田邦子氏の「手袋をさがす」という作品だ。
他者が執念深くはこだわらない物事にどうしてもこだわらずにはいられない自分を、ほんの少し誇らしく思わせてくれる。

今日も雨に打たれながら雑貨店に向かい、傘売り場をのぞいた。
一本二本と気になる傘を開いていくと、これはもしや、という傘に出会えた。カラフルだが柔らかな色合いの、チューリップ柄の傘だ。

普段の服装では黒色や寒色等で落ち着きのある格好を好む自身にとって、新鮮で冒険的な選択だったが、迷いはなくこの傘をお迎えすることにした。

お店を出て外は雨なので、早速この傘を広げた。
道行く人々の傘は思いの外黒く、今自分が広げている傘は「モテそう」な傘だなと思った。

私はこの傘を広げて、これからモテていきたいと思う。
人にも、自分にも。

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