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何もしなかった日

世間は年末の師走の喧騒を吐き散らしながらソワソワとした空気感が伝わってくる。
相変わらずの「置いてけぼり感」を抱えながら今だ貴方の座ってた場所をつい確認してしまう。
遺影の写真の顔はいつも最高に愛おしい笑顔でこの世界から貴方が永遠に居なくなってしまった事すら嘘だったんじゃないかと思わせてくれる。
不思議な事に本当に些細な事で母親を思い出して後悔の様な気持ちになってしまう。
買い物をしてる時、貴方の為にいつも買っていた食材をもう頻繁に買うことはないんだなと思った時や貴方が疲れたと言って座ってた川縁のベンチを見た時、もう使う事がないオムツ‥‥。
悲しさに溺れて何もかも手につかないほどじゃないけど、やっぱりまだ慣れるとか胸を張って「大丈夫」と言えるほど割り切れては居ないのが正直な気持ちだ。
まだ貴方の痕跡を消す行為は沢山残ってて、やらなきゃいけない事も沢山ある。
けど、今朝目が覚めた時「今日は何もしない」という気持ちになったので何もしなかった。
久しぶりに食っちゃ寝の生活。
ほとんどの時間、目を瞑ってた様な気がする。
慌ただしく動いてた昨日までが嘘みたいに何もない1日、何もしない1日。
もともと仕事柄深く長く眠れる訳じゃないし、もう短く眠る事が癖みたいになってるからそこら辺通常運転なんだろうけど、相変わらず短かい眠りの連続。
それでも母親の夢は見なかった。
今年も後今日を除けば3日になってた。
今年は喪中だから神社にも行けないし、正月祝いも出来ない。
気持ち的にも何にも祝いたい気持ちに一向に慣れないから丁度いい。
黙っていても明日は来る。



思い出して気がついたアルツハイマーの予兆(2)

時は2017年。2年前の出来事を忘れ始めた日々。
その時は、ただ体調が優れないだけだろう、風邪だろうと思っていたから相変わらず仕事に忙殺されて全く気が付かなかった。毎日すれ違いの生活だから変化に気付く事はなかった。
今考えると本当に異変だらけなのに、気がつけない自分の方がどうかしてた。
急激に進んだ目の病や、糖尿病と診断されて兄について行ってもらって専門医に診てもらったのに「注射がやだ」という子供みたいな理由で行かなくなったり、化粧をしなくなったり、大好きだった園芸も一切しない、掃除をしない、笑わなくなった、兄の弁当を作らなくなった等まるで鬱病の様になってたのに、誰1人気が付かない。いや、気がついていたはずなのに「母親に限ってそんな事起こるはずない」の思い一点で気が付かないフリをしていたのかもしれない。
そして、その事件は起きた。
正確な日時は覚えていないけど秋口の初めの頃だったと思う。
その週も具合悪いらしく塞ぎ混んで布団で寝ている事多かった様に思う。
確かに微熱があって「病院行こう」と言っても「薬飲んで寝てれば治るから」と誘いを突っぱねていた。
僕も兄もやはり仕事を休む訳にも行かず、父親に任せるしかなかった。
だが、父親嫌いの母親は付かず離れずいた父親の一挙手一投足が気に入らず喧嘩してほとんど父親を近づけさせなくしていた。
僕の仕事は休みが不定期で決まった休みなど取れずその頃休む事は夢のまた夢で、確か丁度その頃、兄も仕事が詰まっていてガムシャラに働いていたが、もともと鬱気質をもっていたので限界が身体から精神まできてしまったらしく鬱病になって休んでいた様に思う。

僕が居ない日、母親がトイレに行くというので兄が手を添えて連れていったという。
そしてしばらくして中々トイレから出て来ない母親を心配して声をかけた。
「母さん!大丈夫?」返事がない。
「母さん!母さん!ドア開けるよ!」ドアノブを握ると鍵がかかって無かった。
ガチャ、ドアを開けるとドサッと母親が倒れ込んできた。
ズボンを下ろして大便をしながら意識がなくなったみたいで、トイレには大便が散らばって居て母親もズボンを下ろしたまんまだった。
兎に角、兄は父親を呼んで母親を2人で運び布団に寝かせたそうだ。
その時父親はオロオロしてただけで役に立たなかったそう。
トイレも綺麗にして母親も無理矢理着替えさせて寝かせたという。

「なんですぐ救急車呼ばなかったの?」僕は、電話越しに言ったけどすぐに察した。
兄は鬱、父はクズ。
無理だなと思った。
「兎に角、明日は病院に連れてこう」そう言って電話を切った。

翌日丁度僕は久しぶりに休みを取れたので、家族全員で母親を病院に連れて行った。
昨日倒れた時はどうなるかと思ったが、数時間後意識を取り戻してご飯も食べれるまで回復してた。
ただ熱は38度代をマークしてて辛そうではあった。
その病院は中程度の大きさの病院で待つ事で有名。
仕方なかったけど、待って診察をお願いした。
2時間くらい待たされ、診察してもらったら「ただの風邪でしょ?」で済まそうとしてたから僕も兄も「昨日トイレで倒れたんですよ!検査もしないでそんな判断おかし過ぎるだろ?ちゃんと検査して下さい!!」と強めに訴えた。
すると仕方ないとでも言いたげに検査してもらう事になった。

「これは即入院ですね、1週間程度で大丈夫でしょうが、尿道から悪い菌が入り込んで身体に炎症を起こしてるみたいなので、薬による対処療法で入院が必要ですね」
ほら、見たことか!
あんた最初なんて言った?風邪で帰そうとしてたんじゃないのか?謝れ!
そう頭の中で怒鳴った。ギュッと思いを噛み殺した。それが大人なんだ!マナーなんだ!
そう思い何も言わなかった。
「よろしくお願いします!ありがとうございます」くらい言ったかも知れない。
でも頭の中では怒りで一杯で記憶がない。
ここで暴れたら母親が入院中嫌な思いしてしまう。
だから最大級堪えた。
それは兄も同じだったらしく後で思いを聞いた。
でも俺はあの医者の顔は一生忘れない。

続く。

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