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webライターは原稿が上手くならないらしい

私のプロフィールはこれの冒頭を読んでもらうと、なんとなくわかります。

 雑誌や書籍がメインで仕事をしていたためか、web原稿を書くなかで一番驚くことがある。それは原稿の文字数制限がないこと。原稿は決まった文字数で表現することが一番難しい。書きたいだけ書く、という発想をライターは持ってはいけない。そこに気がつかなっかった点で、あの仕事は失敗だったと思う。

オウンドメディアで仕事をしてみたら。。。

 昨年、ある企業のオウンドメディアで仕事をすることになった。いっしょに仕事をした若い女性編集者は、本格的な編集経験はないのだが、前職で別のメディアを立ち上げてかなりのPVを稼いだのだそう。一般企業が立ち上げたメディアなのでまずは契約書を結ぶのだが、契約書の素案の段階で、著作権に対する考え方が出版業界とはまるで違っていて、交渉にはたいへん苦労した。※詳細を書くと契約書上、怒られそうなのでこの話はここまで。

 仕事自体はPVを稼ぐために、複数のキーワードを絡めながら連載記事を作るという内容だった。指示されたキーワードを埋め込んで、さらにうんちくを交えて書くという構成は、まったく苦にならなかったのだが、当然、キーワードが増えれば増えるほど、原稿の量が長くなる。こっちは書こうと思えばいくらでも書けてしまうので、歯止めがなくなってしまう。結果、完成した記事は長すぎてあんまり読者に読まれなかった。記事が面白くなかったのだろうと言われればそれまでだが、キーワードを埋めて検索してもらうという企画だったし、編集者は「社内では面白いとみんな言ってますよ」と慰めてくれた。けれども、とにかく多くの人に読んでもらえないと結果を出したとは言えないし、このままだと連載も打ち切りにされてしまう。

 そこで自分の記事のPVを上げるために、このサイトの中でどんな記事が読まれているのか、編集者に聞いてみた。

「実はファンをたくさん抱えているインスタグラマーの記事が、PVがすごいんです」

 なるほど、インスタグラマーに書かせるという発想はすごいなと思った。で、その記事を見ると、なんだこれ、ブログじゃん! 見栄えのいい写真とその著者(ブロガー?)の感想を並べた構成だった。写真の撮り方は工夫しているという。曰く、1枚の写真で料理も自画像も景色も見えるように撮っているとか。僕はプロのカメラマンではないが、写真についてはプロと一緒に長年撮り方を研究していたので、1枚の写真に様々な光景を映り込ませるのは本当に難しいとわかっていた。当時のプロカメラマンの中でもあんまり流行らない撮り方が必要だったのだがスマホだと案外、苦も無く撮れるのだ。スマホカメラは機能は驚くほど進化していた。そしてこのブロガーは、おそらくスマホで「ばえ」な撮り方を駆使していたのだろう。

イラストがそんなに強いとは!?

「もうひとつPVがすごい記事は、イラストエッセイですね」

 こうなってくると、文字原稿というよりイラストのインパクトが、その記事のPVを左右することになる。誤解のないように言っておくと、2つのパターンの記事が読まれていることを、決して批判しているわけではない。ブログでもイラストエッセイでも多くの人に読まれればいいわけだし、僕自身もイラストレーターを巻き込んでイラスト書かせたりしたし、僕自身がファンをたくさん持っていればよかったわけだし。

 結局、この仕事はすぐに打ち切りになった。というよりサイトのテイストが変更されて、僕に仕事をくれたプロデューサーも、経験が少ないなりに頑張っていた担当編集も、その会社をやめてしまった。

 半年たって、またあるオウンドメディアの編集者と仕事の話をした。企画を売り込みに行ったのだが、その編集長からこんな話を聞いた。

「実は編集プロダクションに記事をお願いしているんですが、なかなかいい原稿が上がってこないんです。ギャラは文字数で決めているんですけど、こちらが修正をする手間が増えてしまって困っています。ちょうど安くていい原稿を書けるライターを探していたんですよ」

 えーっと、安く書くとは言っていないのだが。。。

 企業側が安く上げたいのはよくわかるし、コストと質は比例するのが世の常だ。この編集長は出版界にもいたのでコストのことは重々承知していたし、そもそも僕がやってもいいと思った企画はそれなりの原稿料だったので、そこでイスをけって立ち去ることもなかった。そして、ご多分に漏れずこんな話になっていく。

「いま会社はコストをかけて記事を作る段階にはなくて、上司と交渉しているのですが、なかなか厳しいんです。なので編プロを使っているのですけどねえ。(それなりのギャラを払える)こっちの企画はここまでで終了して、コストをかけないで記事を増やせと言われていまして。。。」

 で、申し訳ないけどその安いほうをやらないかという相談だった。両方一緒なら考えますと言ったが、そのメディアからは連絡がないので、その編集長も苦労しているんだろうなあ。

WEBが主流の時代に何が必要とされるのか

 いまはそれなりのコストをかけて、プロに仕事を頼むwebメディアは増えていると信じているのだが、これからもライター側の希望通りになっていくのか、まだまだ不透明だ。読者が求めているのは「プロが書いた専門的で面白い記事」なのか、それとも「素人くさくても目に付いて軽く読める記事」なのか。結論としてはどっちもなのだろうと思うのだが、これだけ素人(本職がクリエーターでない人のこと)が表現できるツールが増えている以上、世界感のあるブログやイラストを駆使したコンテンツのように、世間から評価を受けていく確率は高くなっているだろう。動画の世界はそれが顕著で、YouTubeやtiktokなどで独自の価値観を売りにする素人がすごく目立ってきた。文字の世界でもプロを使いながら素人に場を与えてプロにしていく方法があるのだが、それはまたの機会に。

※最初はwebメディアで文章力を磨く方法みたいなことを書こうと思っていたのだが、書いていくうちに「そうではないルート」もあるのかな? 考えなおしました。プロのテクニックと素人向けのツールという発想になってきたけど、これはこれで今後の課題として考えてみようかなと思います。


雑誌業界で25年近く仕事してきました。書籍も10冊近く作りましたが、次の目標に向かって、幅広いネタを書きためています。面白いと思ったらスキをお願いします。