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“推し”の翻訳者がいるくらし(『Numero TOKYO』12月号「『翻訳者で選ぶ』新しい読書体験」寄稿によせて)

ただいま発売中の『Numero TOKYO』12月号(扶桑社)、巻頭特集内の「あの人がナビゲートする、知る喜び」コーナーにて「『翻訳者で選ぶ』新しい読書体験」をテーマに原稿を書かせていただきました。

“推し翻訳者”の方々はたくさんいるのですが、今回は比較的若手といえる方々を中心に7名(英語圏から3名、韓国語・華文(中国語)・フランス語・イギリス語圏から各1名)の翻訳者の方々をご紹介しています。誰をご紹介するかは、か〜なり悩みましたが、悩んでいる時間も楽しかったです。

記事中でも書いていますが、2012年に刊行された『BRUTUS』(マガジンハウス)の文芸特集号「文芸ブルータス」の中でも、同じ趣旨のページがありました。こちらの「海外文芸は翻訳者で選ぶ」というページでは、12名の翻訳者の方々が紹介されていたのですが、12名中11名が英米・ヨーロッパ圏(英米、ラテンアメリカ、フランス、ロシア)の翻訳者で、唯一紹介されていたアジア圏の翻訳者は、中国文学の翻訳者であり、残雪の紹介者として知られる近藤直子氏のみ。しかも紹介文の文字数が他の方々に比べると圧倒的に少ない状態でした。

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#MeToo 運動をきっかけにチョ・ナムジュ氏の『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)が多くの人に読まれ、これをきっかけに韓国文学そのものも注目されるようになったり(もちろんパク・ミンギュ氏の『カステラ』(クレイン)が日本翻訳大賞を受賞していた影響も大きいと思います)、今年には劉慈欣氏の『三体』(早川書房)が大ヒットして、書店の平台(しかも目立つ位置に!)にアジア圏の翻訳作品もずらりと並んでいる今の状態は、ガイブン好きにとってものすごく幸せな状態なと感じたりもします。「もし近藤さんがこの様子を見ることができたら、ものすごく喜んでいたのでは……」と思わず想像してしまいます。

ちなみに自分は東京外国語大学出身ということもあり、世の中的にマイナーとされてしまっている言語に関しては、ちょっと思い入れがあったりもします。誌面ではスペースの都合もあり実現できなかったのですが、トルコ文学の翻訳者である宮下遼氏をはじめ、同窓生にあたる翻訳者の方々もご紹介したかったのが正直なところです。

あと金原瑞人氏と三辺律子氏が編集・発行されている、「『もっと海外文学を!』『翻訳物はおもしろいんだ!』と主張する冊子」こと『BOOKMARK』について触れることができなかったのも心残りだったりする。

ちなみに『BOOKMARK』ですが、今年9月に『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』(CCCメディアハウス)という書籍になったばかりなので、面白いガイブン作品を探している方や、“推し翻訳者”を求めている方はチェックしてみると良いと思います

「“推し翻訳者”なんて、いなくても別によくね?」と感じる人もいると思います。ですが、個人的には“推し翻訳者”がいるといないとでは、読書ライフにかなり違いが生まれると思います。

自分の体験でいうと、誌面にてご紹介している翻訳者の方の一人が手がけた某作品を読んだことをきっかけに、長年にわたって苦手だと感じていた某ジャンルのガイブンを読めるようになりました。この体験は自分にとってかなり驚きだったので、この翻訳者さんのことを“推し”としてとらえ、“推し”が翻訳した作品を積極的に読むようにしたところ、原作者が知らない作家であっても「“推し”が翻訳しているんだから、大ハズレってことはないだろう!」と躊躇することなく手に取れるようになり、読書の幅もメチャクチャ広がりました。

誰もが似た体験を必ずしもできるわけではないでしょうが、どうしてもガイブンを読むことに対してハードルの高さを感じてしまうという人がいましたら、試しに翻訳者という切り口で作品選びをしてみて欲しいです。翻訳者に限らず、そもそも“推し”と思える存在がいるだけで、日々の生活はより楽しくなるものですから。

グダグダと書いてしまいましたが、要は「せっかくいろんな翻訳書が今は出版されているんだから、みんなもっとガイブンも読もうぜ!」ってことです。

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ちなみに自分には“推し文芸編集者”も実はいます。“推し文芸編集者”切り口で書籍を書籍紹介をしても面白いような気もするのですが、「なんかやばい人がいる……!」と編集者さんをビビらせてしまう予感しかしないのでやめておきます……。

何はともあれ、書店などで雑誌を見かけましたら、お手にとっていただけると嬉しいです。ちなみに同じ号には、のんさんのインタビューページもあります。モードファッションを着こなすのんさんの姿、すごく素敵ですので、ファンの方は必見ですよ。