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ITOのジェンダーバランス トライアスロン

 パリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会にて、トライアスロンは国際組織の中で初めて「テクニカルオフィシャル(審判)の男女比率を50:50」および「オリンピック・パラリンピック代表の国内競技連盟(NF)43団体全てから選出」を成し遂げた。


詳細


 パリオリンピック・パラリンピックの国際テクニカルオフィシャル(ITO)のうち50%を女性が占める結果となり、スポーツ界のジェンダーバランスをリードした。2020東京オリンピック・パラリンピックの女性TO 47%もかなりジェンダーバランスに進んだ数字に見えたが、そこからさらに割合を増やすことに成功した。
 また、ジェンダーバランスだけに留まらず、ダイバーシティ・インクルージョン(DI)の面でも他の国際組織より一歩進んでいると考えている。なぜなら、オリンピック・パラリンピック代表に選出された43カ国の選手ら全ての国内競技連盟からITOが選ばれているのである。このようにしてジェンダーバランスだけではなく、全ての参加国のバランスも大切にしている。

会長によるコメント

 今回の偉業に対して、World Triathlon会長のマリソル・カサドさんは「私たちは力強くコミットしている役員やスタッフチームであることを改めて証明するだけではなく、トライアスロンがオリンピック・パラリンピック競技として採用された2000年のシドニーオリンピック以来、私たちは女性のスタッフを信頼し、彼女たちをエンパワーしていることを証明している。それ以上に、ITOのリストにある一人一人が懸命に努力をし、コミットしていることが何よりパリオリンピック・パラリンピックを輝かせるだろう」とコメントを残している。そしてワールドトライアスロンの会長が女性であることも注目すべきポイントである。

背景

 女性ITOの比率を50%を達成した背景にはどのようなプロセスがあったのか。ワールドトライアスロンはガバナンスについてもコメントしており、何より選任プロセスの「透明性」が大切であると主張している。ITOの選任基準は、ワールドトライアスロンテクニカルオフィシャルアポイントメントルールに記されており、それに則って、各国の連盟からの推薦又はワールドトライアスロン テクニカル委員会およびテクニカルデレゲートによる推薦されたメンバーを最終的にワールドトライアスロンの理事会によって承認を得るといった多段階のプロセスを経ている。

ワールドトライアスロン・テクニカルオフィシャルアポイントメントルール(WORLD TRIATHLON
TECHNICAL OFFICIALS’ APPOINTMENT RULES)を詳しく見てみるとジェンダーに関しては、「委員会はワールドトライアスロンが掲げているジェンダーバランスの目標を考慮しなければならない」と記載されているのみであった。ちなみに掲げているジェンダー目標はWorld Triathlon Constitutionに記載されており、各委員会やグループにおいてジェンダーが平等に構成されるよう細かく規定されている(参照:https://www.triathlon.org/uploads/docs/Constitution_2024.pdf#page18

3. Technical Delegate / Assistant Technical Delegates appointments
3.3. Selection criteria for the Technical Delegate / Assistant Technical Delegate appointments:
h. The panels must consider the World Triathlon strategic goals related to gender balance.
※ Medical Delegate, Paratriathlon Classifiers も同様

World Triathlon (2023) “WORLD TRIATHLON
TECHNICAL OFFICIALS’ APPOINTMENT RULES”, https://www.triathlon.org/uploads/docs/World_Triathlon_TO_appointment_rules.pdf (Accessed Sep. 17th, 2024)

意見・学び

 近代スポーツは男性によって作り上げられ、マスキュリンな性質が守り抜かれてきた。オリンピックについてもはじめは女性の参加が認められていなかったというほど、女性がスポーツを行うことすら参入する障壁は大きかった。そのため、今でもスポーツ、特に男性性の強い種目を女性が審判を担うことは考えられないという意見が多いのは想像がつく。ちなみにIOC(2021)の調査によると、東京オリンピック・パラリンピックのITOにおける女性の比率は30.5%であり改善傾向にあるものの、平等には程遠いことがわかる。パリオリンピックのデータは調査中であるが、トライアスロンがやはりジェンダーバランスに進んでいる競技なのは間違いない。
 一方、トライアスロンの審判は柔道やサッカーなどに比べ、審判の数が多いことが特徴としてあげられる。また、トライアスロンは競技が作られた当初からジェンダーバランスを重要視してきたことから、女性が審判をしていても違和感が少ない。一方で、柔道や空手など伝統のあるスポーツ(男性によって作り上げられてきたスポーツといったイメージが強い種目)に女性が審判をしていたら珍しく思う。あくまで個人的な意見ではあるが、審判のジェンダーバランスを達成する難易度はその種目に植え付けられているジェンダーイメージ(歴史や伝統)の影響が非常に強くや審判の人数も少しは影響しているのではないだろうか。

参考文献

[外国語文献]

[日本語文献]


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