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こんにゃく煮が生んだランチ仲間

「その、こんにゃくのやつ、ママもいつもやってくれるよ!」

「面白い形だよね、これ意外と簡単に作れるんだよ。ええと・・・」

私がお弁当にこんにゃく煮を入れていった日の、とある子どもとの会話である。


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幼稚園で6年間働いてきて、毎日色んな遊びや活動があったが、その中でも特に私が6年間を通して大事にしてきたのは、子どもたちとのお弁当の時間である。

大事にしてきたことを一言で言い表すとすると ” 食育 ” だが、食育うんぬんではなく何よりも、楽しい食事の時間となるよう働きかけてきた。


食べることや作ることがとにかく好きな私は、子どもたちにも食の楽しさを知ってほしい、給食・お弁当の時間を楽しんでほしい、という思いから、自分のお弁当に毎日何かしらの仕掛けをしてきた。



そのうちの一つが、こんにゃく煮である。



前日から、上記の会話のとある子(Aくん)に

「明日一緒にお弁当食べようね」と誘われていたため、しめしめ・・・と思いこんにゃく煮を入れてみたが、

実はこのAくんが、私のお弁当のこんにゃく煮に食いついてくるだろうというのは予想できていた。



Aくんのお弁当はいつも単に見栄えが良いだけでなく、季節の野菜が入っていたり、甘辛・おひたし・バター炒めなど味付けが豊富であったり、親子丼・肉詰め・カツなど調理方法が工夫されていたり、、、


とにかくお母様の愛情がいっぱいで美味しいんだろうな、家庭の食卓もあたたかいんだろうな、と、色々なことが感じられるお弁当だった。



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「その、こんにゃくのやつ、ママもいつもやってくれるよ!」

私のお弁当のこんにゃく煮に食いついてきたAくんにこのあと、

ホントは食べ物で遊んじゃいけないけど今は特別ね、と前置きしてから、私のお弁当の中のこんにゃく煮を取り出して

「真ん中を切って、中にこんにゃくを差し込んで、ぐりんってするだけだよ」

と目の前でやって見せた。(ぐりんっていう擬音大事)


次の日。

「これ今日の朝、ママと一緒に作ったよ」と嬉しそうにお弁当の中身のこんにゃく煮を見せてくれたAくん。

この瞬間

食育がどうこうということは関係なく純粋に、こんにゃく煮を通じてAくんと心を通わせられた、ランチ仲間になれたと感じ、嬉しかった。


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こんにゃく煮を実際に手で持ってその場でやってみせるという荒技も、して良いことなのかどうか。


食べもので遊んでしまって終わるのか、食により関心を持つのか。


やはりそこは食の時間だけでなく、日々子どもたちの成長を良く見て、発達段階に応じた援助の仕方を考えて、親子関係にも目を向けて、しっかりと判断してから関わっていく他ない。



そして、こんにゃく煮である必要性。


子どものお弁当といえば、

タコさんウインナーやミートボール、プチトマト、キャラクターふりかけといった代表的なおかずは色々あるが、それらをお母さんがお弁当に入れてくれるならまだしも、先生のお弁当にはそこまで求めていない。



子どもたちは、

先生のお弁当に入っているおかずと、家庭でお母さんが作ってくれる料理とを重ねることで安心し、お弁当の時間を楽しめるのではないかと私は思っている。




たかがこんにゃく煮、されどこんにゃく煮。