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工藤吉生の『未来』の短歌

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歌誌『未来』に掲載された短歌のまとめ。2016年1月号から。彗星集。 投げ銭方式なので、無料ですべて読めます。
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#短歌

おしん短歌 第1回  ~『未来』2020年2月号掲載

おしん短歌 第1回  ~『未来』2020年2月号掲載

おしん短歌第1回   工藤吉生

オレごときの生活なんぞよりずっとテレビ「おしん」に〈人間〉がある

名作のドラマ「おしん」で初回から妻が夫にビンタされてた

母さんも所詮は女だからなと汚れた指を拭きながら言う

火を囲み飯をかきこむ少女らの一人称が全員「おれ」だ

貧しさよみんなが食っていくために遠慮しあっている三世代

白米をおかずも無しに食べるとき贅沢ゆえの叱責がとぶ

川に行き洗濯をする 

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クイズノックほか  ~『未来』2019年12月号掲載

クイズノックほか  ~『未来』2019年12月号掲載

クイズノックほか  工藤吉生

クイズノック二週間見てミョルニルとベイカーベイカーパラドクス知る

わるいときだけ思い出す肉体の臓器は幸福論に通じる

ビッグイシューの「イシュー」の意味を検索しきれいに忘れ現在に至る

まっしろなくしゃくしゃ紙を内に秘め買う者を待つブランドバッグ

聴覚の検査するとき押しボタン持ってクイズの緊張感だ

マジシャンが指から落とす砂のよう財布を出る出る出るレシートは

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守護霊シクシクとかのやつ  ~『未来』2019年11月号掲載

守護霊シクシクとかのやつ  ~『未来』2019年11月号掲載

守護霊シクシクとかのやつ  工藤吉生

守護霊がオレのうしろでシクシクとシクシクとああ、ああシクシクと

首もげるくらい共感したというそのままもげて飛べばたのしい

そうこれが二十九度だよ冷房をなにもつけずにいてやや暑い

自販機のルーレットいま惜しかったもう一度やったら遠かった

あちらへと行きたいオレとこちらへと来たい見知らぬ人、信号機

短冊にねがいごと書くような人の願いがきれい叶ってほしい

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なるけま  ~『未来』2019年10月号掲載

なるけま  ~『未来』2019年10月号掲載

なるけま  工藤吉生

毎日をちゃんとしてると短歌とか作ってるヒマあんまりないな

森だなと思い見てると石段が透けてる朝の車窓の向こう

障害を恥じるあなたにオレだっていつそうなるかわからんと言う

木の机を両手で叩く休み時間「うるさい」とだけ感想もらう

券売機をかわいがってるおばさんはそんなわけない清掃員だ

お湯ならば飲むが白湯(さゆ)なら飲まないよ飲んだら刺してほしいくらいだ

突っ走

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平成三首、そのほか【短歌10首】  ~『未来』2019年5月号

平成三首、そのほか【短歌10首】  ~『未来』2019年5月号

平成三首、そのほか

平成のはじめに性に覚醒しあくびしながら平成おわる

年号がうつるくらいじゃ変わらんよ、人は 奥から牛乳えらぶ

振り向けばうしろすがたの平成が後ろ歩きをしているでしょう

デパートとデパートつなぐ空中の通路に人っぽいもの揺らぐ

一点の撮ったおぼえのない画像でてきて知っている白い壁

筋トレじゃなくて赤ちゃんあやしてる動きも視野に信号を待つ

赤ちゃんのころのアルバムひらいた

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格付けチェック  ~『未来』2019年4月号掲載

格付けチェック  ~『未来』2019年4月号掲載

「格付けチェック」

元日になると思うが人間はこんなんじゃあたらしくならない

ついたちの朝見た夢を弟は初夢と言いオレも出たとか

クイズ王が司会のオレを待っている夢の中へともう戻れない

お雑煮のなかにおもちが眠ってるオレの苦手なおもちがひとつ

鼻くその味をかすかに覚えてるもう何年も食ってないねえ

眼が描いてある目隠しの下にあるGACKTの瞳が肉を見分ける

赤いドア開けるふりして青いドア浜

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東京へ、授賞式へ【短歌10首】

東京へ、授賞式へ【短歌10首】

東京へ、授賞式へ   工藤吉生

オレの行くときだけ雨がやんでいる予報だったがもう過去のこと

革靴になじまぬ足で歩いてるいつもの道が水中みたい

新幹線 何年ぶりに 乗ったかな 「ん」が3つある しんかんせんに

人混みを我慢して行くガマンしてがまんしてまだひとごみのなか

狭くって高くて不味い東京のうすぐらい店も旅の思い出

地下道をながく歩いて外へ出た雨の水面を白鳥うかぶ

TOKYOは外国

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エライ【短歌10首】

エライ【短歌10首】

「エライ」  工藤吉生

よいしょ、って座ったソファが思ってたよりも深くて天をあおいだ

眼球のない目でこっちをにらんでるマネキンのコートもう秋だねえ

何時間寝たか計算しているがよくわからない二時間がある

玉ねぎが十キロ入っている箱を持ち上げるときこころはひとつ

悪臭はするけど誰がすかしたかわからぬ電車の客、客!客。客?

コインだと思えばあまり痛くないすごく激しい雨のつぶつぶ

クイズ出し

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男乃道 【短歌10首】

男乃道 【短歌10首】

「男乃道」  工藤吉生

誰か死ぬたび平成が終わったと言われて飽きる平成の終わり

九千円たしかにあって受け取ってけれどもごまかされてる感じ

レシートはいろいろ書いてあるねえとひらひらさせるゴミ箱の上

理想郷 生寿司(2割引)のあとヨーグルト(58円)もある

そんなのがいくらでもでてくるんでしょピアノと管楽器の二重奏

ぐきぐきに曲がった松の枝振りの「でや」とテニスの球を打つ人

トラックに

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車にはねられました  ~「未来」2018年9月号

車にはねられました  ~「未来」2018年9月号

車にはねられました

自転車で青信号を渡ったら車に当たり飛んだよマジで

死んだとは思わないけど面倒が体を包む感じはあった

自転車と鞄とスマホとスマホ用電池パックと工藤吉生が

腰を打つ 仰向けで「アア!」「アア!」と言う 道路のうえで産まれたみたい

五十秒くらいもがいて立てる気がして立とうとして立ったら立てた

三メートルくらい飛んだと耳に聞く誇らしいのはなぜなのだろう

インテナースパップ

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おさまってない  ~「未来」2018年8月号掲載

おさまってない  ~「未来」2018年8月号掲載

「おさまってない」工藤吉生

ポケットにもぐって暖をとっていた両手おのずと出てくる春は

メニューとはちがう気がする春野菜パスタ見比べあきらめがつく

見本より色あせているパスタだが味はおおむね差し支えない

この人にも家族があるんだろうなあと想像させる顔の店員

無着色ながら真っ赤なケチャップをつけてポテトを無意識に食う

耐えているみたいな顔の男から目をそらす、また見る、耐えている

支払いを

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変人はみだし放題【10首】

変人はみだし放題【10首】

「変人はみだし放題」

変人が生えてきそうなあたたかい日差しだ さてと散歩に行こう

ギター弾く人のうしろを通るとき振り向かないでくれと願った

ジャヌカンの「鳥の歌」には「笑わせてやりたい放題」という歌詞あり

ふざけてる替え歌みたい制服の上に乗っかるオレの顔面

声のでる自販機いなくなってから記憶が鳴らすイラッシャイマセ

つかのまの光は自分に影がある事実を思い出させてくれた

DOUTORの

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高速バスで東京へ【10首】

高速バスで東京へ【10首】

「高速バスで東京へ」

東京に向かって走るバスに乗る表彰されるために乗るバス

赤だけどわりと悠々渡ってるおとこ見下ろすバスの座席に

雨に濡れ乾いたままの窓ガラスを通して見える木々のざわめき

冬色の山をながめるこのバスの急カーブで落ちてくるリュックは

コンセントやトイレのついたバスもある話を聞いてからの無いバス

比較的若い男の多く乗る高速バスでふゆやまに雲

目の覚めるほどに真っ赤なトラッ

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質問箱より【5首】

質問箱より【5首】

「質問箱より」

  〈2018年の抱負を十七文字でお願いします〉
「無選歌の欄でもやれるオレになる」こんな感じでいかがでしょうか

  〈既婚者ですか?〉
結婚はしていませんよあなたにもチャンスがないこともなくもない

  〈もし明日が人生最後の日だったらあなたは何をしたいでしょうか?〉
人生が今日で終わるということに一日おびえつづけるでしょう

  〈作歌していてスランプの時期はありましたか?

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