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アディクティッド・インターホン【ホラー中編小説9話・完】


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

座り込み、泣きながら何度も何度も謝った。

涙を流し、汗をかき、尿を垂れ、頭を抱えて謝罪した。


30分ほど経っただろうか。
何も聞こえなくなったので、涙を洋服の袖で拭きながら、ゆっくりと立ち上がった。
インターホンはひび割れ、拳に付いた血が移っている。液晶画面にもひびが入っていて、カメラも起動しないのではと思った。

呼吸を整えながら、恐る恐るカメラを付けた。

ピッ

ザ・・・ザザ・・・

少々映りが悪くなってしまったが、ひびの入った画面の奥に見える風景は、いつものエレベーターと通路だった。

女性はもういない。

何か幻でも見ていたのではと考えたが、ボロボロになったインターホンや、飛び散っている血が、そうでないと伝えている。

女性がいなくなっていたことで少しだけ安堵し、カメラを切ろうとした時、

ふと、思い出した。


・・・・・・・・ら


「・・・ら・・・ら!?・・・・・・ら、って何?」

あの女性が言っていた

・・・ら

「・・・ら?・・・おまえ・・・ら・・・?」

あの女性が最後に叫んだ言葉


おまえら


「おまえら?え?・・・ら?」


フ~

フ~

耳元で空気の抜ける音がする。

フ~

コ~~フ~~

呼吸だ。今、耳元で、誰かの呼吸する音が聞こえる。
インターホンの方を向いたまま動けない。

塩田は、呼吸のする方を目だけ動かして見た。

何か白い物がうっすらと見える。
少しずつ少しずつ顔を動かし、横目で見ると顔のような物が見え、その顔から呼吸が聞こえてくる。

コ~フ~
コ~フ~

「・・・(顔!?)・・・」

コ~フ~
コ~フ~
コ~フ~

複数聞こえる。

一人ではない。

自分の顔の真横に、知らないおじさんの顔がある。その奥には、さらに顔。その後ろにも顔・・・。

顔、顔、顔、

顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔

リビングいっぱいに、10人、いや20人。
もっと、50人くらいの人が、皆・・・


インターホンを覗いていた・・・


「うわああああああああああ」


*****


「お久しぶりです。大屋さん。少しは落ち着きましたか」

僕はあれからいろいろ考えた。

「あらやだ。あなた達、警察が落ち着かせてくれないじゃないの。嫌んなっちゃう」

あのインターホンから見た女性は、生霊ではないかと。

「また、誰かあの部屋に入るんですか?」

彼氏を奪われ、意識不明の重体になりながらも、山崎さんに監禁されている彼氏を救いたかった。
その思いが、生霊となって現れた。

「そうなの。そろそろ新しい入居者がくる頃だから帰ってくださる?入居日早々、パトカーなんて止まってたらビックリするでしょ?」

あの女性は、初めから僕が覗いていたことを知っていた。502号室の前に体育座りして、こっちを見ていた時から・・・。

「そうですね。次は・・・次は何も起きずに、長く入居されると良いですね。では、失礼します」

あの時の女性のうめき声・・・
(・・・・ううう・・・ぃぃ・・・・・・ぅお・・・・)

「初めまして大家の大屋です~。4階の501号室まで案内しますわ。4階だけど501なんですのよ。ほら、4って縁起が悪いって言うじゃない」

う・・・し・・・ろ・・・
後ろ、と言っていた。

「あとね、このエレベーター、ドアが開く時にポンポン音が鳴るでしょ?ちょ~っとだけうるさいんだけど、奥の部屋に入ればあまり聞こえないから」

覗いている僕の後ろに、たくさんの霊がいたことを伝えていたのだ。

「大きい声じゃ言えないんだけど、その分お家賃安くしてるのよ」

そして・・・僕は・・・今日も・・・

「あとインターホンが壊れてたから新しく付け替えてるのよ。私は1階の101号室に住んでいるから、何か分からないことがあったらいつでも声をかけてくださいね」

インターホンを覗いている・・・

「このアパートのことなら何でも知ってるから・・・・・・・な~んでも」

新しい入居者が来たようだ。
僕の隣でインターホンを覗いていた、子連れの夫婦が呟いた・・・


ククク・・・また来たね

~完~

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