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439.20230221:ランの回:ロウバイの精霊


ラン

お客さんは生まれてから三十年の間、
山を出た事が無かったらしくて、
行きに自分が残してきた臭いの目印を辿って、
臭いを消しながら帰ったんだ。
雨が降らなくて心底良かった!

お客さんの住んでた山の麓からは早かった。
「おいらの山だ! 抱っこして! 
橙色の実がいっぱいの木の後ろ、
おいらのうち!」
ランが抱っこして走ったよ。
見上げるとなかなか肥沃な山なのに
何でヒューマンが居ないのかと思ったら、
顕形の魔物のひとが所有してる事が後で分かった。
立派なオレンジがたわわに実ってる木まで、
すごくなだらかな獣道を駆けて
十分くらいだった。
おちびの郷里みたいな
最短ルートの急こう配じゃなくて良かった。
ご依頼の花は、
殻持たぬ青海の星のグ×グル先生に
撮った写真で尋ねたらロウバイだった。

「根元から大きく飛び出してる
枝が栄養を吸っちゃってるから、
剪定してほしい、今すぐ!」って
ロウバイの精霊。
「一昨年去年の花実で力を使い切っちゃった
古ーい枝がたっくさんあるから、
それも剪定してほしい、今すぐ!」とも。
なるほどね、
時期を逃すと
木自体が弱くなっちゃうからなんだね。
グ×グル先生すごいわ。
色んな先生が居て助かる。
剪定知識は、
お客さんだけじゃなくて
おちびもランも無かったから、
職人に頼んだ方が良いだろうと思って、
麓の村に下りた。

お客さんは麓の農村で人気者だった。
それもその筈、
お客さんには稲の精霊の加護があるんだって!
お蔭でロウバイの剪定も得意な庭師に
稲作農家の人が毎年交代で
お客さんの代わりに
剪定代金を払ってくれる事になった。
いつもお客さんが食べられる分しか
稲の声を届けた御礼を受け取らなかったから
もっと何かしてあげたいと
農家のひと達は思ってたんだって。

庭師はロウバイだけじゃなくって、
手あたり次第
オレンジとリンゴとイチゴも綺麗に剪定して
普段の手入れの仕方をお客さんに教えて、
お客さんの倉庫の
傾いてぶら下がってた扉も直して行った。

お客さんは上手く乾燥させてあった
木の実や果実のものすごい量の商品を
ラン達に見せてくれて
「一番大きな麻袋一杯分詰め放題!」って
お客さんよりも泰市たいちよりも大きな麻袋を
おちびとランと泰市にまで渡してくれた。
「ほんとに、本当にありがとうなんだ!
精霊のあんなごきげんうるわしい顔
とっても久しぶりに見れたから!」って。
泰市は見つけたマタタビの実、
おちびは大好きなイチゴチップス、
ランは大好きなクルミとクリを、
よく分からないけどすごく良い香りの
何種類かの実と一緒に遠慮なく詰めたよ。

帰りは麓の村で地図を見せてもらって
電車と乗り合いバスに乗って
四時間で帰ってこれた。
うん、良い日だった。
久幸さんと凌司さんからの報告も
安心できるものだったし。
こっちだと15日の日まで
待機の指令が入ったって。
何時招集入るか分からないのは
精神的に負荷が大きいからね。
気が逸る事もあるだろうけど焦らないで
ちゃんと規則正しい生活して
訓練頑張ってって返した。
もう一つ二つ凌司さんに向いてそうな
呪符をおちびと考えようっと。

マリエラセス暦3904年3月11日緑曜日22時51分。


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