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一次性と二次性について -子どもの血球貪食症候群-

肝機能は正常値に収まり、フェリチンも低下。発熱もおさまってきている。化学療法自体は効果的のようだ。

しかし、最も重要である血球の数値は相変わらず見事なまでの低水準である。血小板に至っては、入院当初の数値まで下がってしまった。

貪食の症状自体は改善されているものの、血球の改善には至っていないという結果により、再び根本問題が表面化してきている。


結局、この血球貪食症候群の引き金になっているものは何なのか? 

1月から進められていた遺伝子検査については、現状では一次性の原因となる主要な遺伝子異常は見られなかったらしい。引き続き詳細な研究調査は進めているとのこと。一方で、二次性の要因となるような細菌、持病の存在も疑われていない。

そもそもこの症例自体が極めて珍しく、その中でも次女はかなり珍しい部類に入るようだ。下手したら新しい症例になるかもしれない。そういう独創性は本当にいらない。

加えて、貪食症状が抑えられているのに血球が増えないということで、そもそも血球がつくられない再生不良性貧血も併発しているようだ。なかなかに厄介な状況である。

やはり抗がん剤は抗がん剤である

さすがにエトポシドの投与期間が長いからなのか、ここ1-2週間で急速に髪が抜けてきている。おそらくあと数日したら頭皮が見えてくるであろうペースである。こればかりは、治療がうまく行きさえすればまた生えてくるのだから、これ以上考えることではない。

本人も必要なプロセスであることを理解しているため、それほどの動揺はない。正直、立派である。

一次性と二次性について

改めて血球貪食症候群について、もう少し深掘り。

断っておくが、私は医療の知識は完全に素人であるため、ここから先の情報は医学的には正確ではない可能性が高い。正確な情報はネット上に論文や医療機関が作成したページがあるため、そこで調べてもらいたい。

あくまで、当事者や関係者が「まあ大体こんな感じの病気だろう」とざっくり理解するヒントになるため、あるいは同じく素人同士でどんな病気であるかを伝えるときの参考情報程度として考えてもらいたい。

以前の記事(子どもが血球貪食症候群(HPSもしくはHLH)に罹っている話)で書いた通り、この病気は大きく一次性と二次性に分かれている。

この病気の直接的な症例である「マクロファージが血球を貪食してしまう」メカニズムの全貌は、まだ解明されていないらしい。ただ、免疫制御がうまく機能していないことで起こる過剰な炎症反応が関係していることまでは分かっているようだ。

この過剰な炎症反応を引き起こしている要因の違いが、一次性と二次性を分けている。一次性は遺伝子起因、二次性は感染症や持病の悪化などの別の根本要因がある。

一次性血球貪食症候群は乳幼児/小児に多い

一般社団法人 日本血栓止血学会の学会誌『日本血栓止血学会誌』(通称:血栓止血誌)29巻(2018年)6号に記載されている情報によると、一次性は「遺伝子変異」や「免疫不全症候群」、「X連鎖リンパ増殖性疾患」などの遺伝性疾患に発症する、とされている。

どうやら、NK細胞やT細胞といった人体に備わる免疫細胞の機能に関わっている遺伝子が変異していて、この機能が常に低下または欠損している状態らしい。

そこに、何らかの感染症が入ってくる。すると、NK細胞やT細胞は足りていない機能を補おうと分裂・増殖を繰り返す。その結果、炎症性サイトカインというものが大量に分泌される。それによって、全身の炎症とマクロファージの活性化が起こる。

マクロファージは、本来は「自己トレランス(自己免疫寛容)」とよばれる、自己組織に対しては攻撃をしないという機能がある。しかし、このときのマクロファージはなぜかその機能が失われており、その結果、自己組織である血球を攻撃(貪食)してしまう。こういう流れらしい。

  • 元々(先天的に)免疫細胞機能が低下または欠損している

  • 感染症が引き金となり引き起こされる

ということから、乳幼児の段階で発症することが多いのだろう。この世界に生きている以上、感染症要因となる細菌やウイルスを完全に排除しつづけることなどできない。そのため、結果的に人生の早い段階でその引き金がひかれやすいということか。

なお一次性においては、NK細胞やT細胞の増殖が引き起こされているため、これらの細胞を含んでいるリンパ球の数も増加する傾向にある。

治療方法については、抗がん剤・ステロイド・免疫抑制剤の3点セットで症状を和らげることが試みられるが、先天的な部分が大きいため根本的な改善という意味では造血幹細胞移植も視野に入れることになる。

二次性血球貪食症候群は、根本要因の改善が求められる

対して二次性血球貪食症候群は、別の要因の余波を受けた結果、炎症性サイトカインが大量に分泌され全身の炎症とマクロファージの活性化が起こる。

その要因は主に3つ。

①感染症
特に多い要因はEBウイルス。EBウイルス自体は世界中の95%が感染し、そしてほとんどの人は感染したことすら気づかない程度のウイルスだが、血球貪食を引き起こすと重度のものになるらしい。

②悪性腫瘍
端的にいうとガン。もっと具体的にいうと、リンパ球がガン細胞化するリンパ腫によって引き起こされることがほとんどらしい。

③自己免疫疾患/膠原病
例えば全身性エリテマトーデス(SLE)や全身型若年性特発性関節炎(SJIA)などの自己免疫疾患、膠原病などの活動性によって引き起こされるらしい。

その他、造血幹細胞移植や薬の副作用なども原因の一つとされている。

二次性の場合は、貪食の症状を抑えるための治療も必要だが、要因となっている方の症状を改善させていくことが本質的な改善方法になる。逆に言えば、根本要因が改善されれば自然とおさまっていく可能性が高いようだ。

次女の引き金が判然としない理由

症状は明らか。だがそれならば…

さて次女の症状だが。
起こっている症状としては明らかに一次性に近い

  • 二次性の引き金になるような感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患、膠原病のどれも検査をしたが確認できなかった

  • 一次性の特徴であるリンパ球の増加が見られる

だが冒頭で伝えた通り、遺伝子検査では、一次性の要因として挙げられてきた主要な該当遺伝子で、変異が確認できていないらしい。そもそも、次女はこれまで人並みに様々な感染症にかかっているため、一次性なら「なぜいまさら発症?」という疑問が湧いてくる。また遺伝子起因といわれても、私にも妻にも血球貪食症候群どころか血液疾患の持病を持つ家族すらいないため、遺伝性といわれてもいまいちピンと来ない。

これらは当然、医師側も認識している。だが、二次性の要因は一次性以上に明確に否定されている。だからこそ、“かなり珍しい部類”のようである。

もっとも、この一次性の血球貪食症候群は国内で年間150程度しか事例が無いらしく(日本小児血液・がん学会 監修『小児HLH診療ガイドライン 2020』より引用)、まだ全容が判明していない。本当に次女が新しい事例になる可能性も否定できない。

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