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1. もちろんロン毛おじさんです。


「もちろんです。」


私はただ、新しく入社したばかりの会社でいい顔をしたいという想いだけから、二つ返事で引き受けてしまった。

そう、あれは2016年の6月か7月くらい。
某オンライン英会話の会社に縁があって入社した。
入社初日のオリエンテーションの後、所属する予定であった部署の部長にあいさつに行ったところ、


部長: 「君は大学時代、フィリピンに留学してたよね?カガヤンデオロって知ってる?」

私: (カガヤンデオロ…聞いたことないな。でもここで知らないとかいうと、「こいつホントは留学してないんじゃね?」とか、「こいつ地理クソ弱いなwマジ卍ww」とか思われるかもしれない。ひとまず無難にいこう。)

私: 「はい、あの地域の人はみんなフレンドリーですよね。」

部長: 「やっぱり知ってるのか。どうやらフィリピンでは”黄金の友情の街(City of Golden Friendship)”と呼ばれてるくらい、人々はホスピタリティに溢れているらしい。」

私: 「はい、懐かしいです。」

部長: 「そうとなれば話は早そうだな。予定とは違うが、そのカガヤンデオロという街で新しく会社を立ち上げることになりそうなのだが、やってくれるかい?」

私: 「もちろんです。」


もちろんです=Of course=私はカガヤンデオロという聞いたこともない地域で会社の立ち上げをやる=新婚1か月なのにいきなり別居=会えない時間が愛を育てる=これってホントなの? 誰か教えて


落ち着くんだ。

ひとまず、カガヤンデオロについて調べよう。
まずは安全性の確認。外務省海外安全ホームページによると、なるほどね。


【警戒Level2:  不要不急の渡航はやめてください】
・その国/地域への不要不急の渡航は止めてください。渡航する場合には特別な注意を払うとともに、十分な安全対策を行ってください。


なるほど....


っておい!!!!!


Level2っていったら普通はもっとマイルドな結果だろ!!!
そもそも不要不急の定義は人それぞれ!!!
明確に「海外子会社の立ち上げは止めてください」と記載しろ!!!


焦るな紳士(ジェントルマン)よ。

押してもダメなら引いてみろ。もっとマクロで見よう。
カガヤンデオロはミンダナオ地域にあるのか。検索っと。


レコメンデーション: [ミンダナオ テロ] [ミンダナオ 治安] [ミンダナオ 死者] 


っておいいいいいい!!!!!!!!!!!!



ちなみにハワイって検索したら

レコメンデーション: [ハワイ 時間] [ハワイ 旅行] [ハワイ ホテル]


普通そーだよね!!!!!!


ただただ、入社初日だから好印象を与えようとしたが故にこの結果。
マインスイーパーの1クリック目で爆弾に引っかかったくらいのスピード感。これがベンチャーなのか。


部長: 「立ち上げの責任者と会ってもらいたいんだけど、ちょっと時間あるかな?」

私: 「もちろんです。」


おしゃれな会議室が並ぶ通路。
そこで待っていたのは、このブログでは”ロン毛おじさん”と呼ばれる、これから立ち上げる会社の初代CEO。
40代半ばで、刃牙に出てくる花山薫を少し小さくして、ロン毛にして、目の大きさを500%拡大したような男。

とにかく、目がでかい。顔の半分ぐらいが目である。そして髪が長い。ただのロン毛である。
つまり、目玉の親父にロン毛のかつらを被せて筋トレすれば、それ即ち”ロン毛おじさん”である。


ロン毛おじさん: 「初めまして、ロン毛おじさんです。」

私: 「初めまして、よろしくお願いします。」

ロン毛おじさん: 「私は君のことを全く知らないし、逆もしかり。年齢も親子くらい離れている。もしかしたら、上手くやっていけるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、もし喧嘩してどうしようもなくなったら、どちらかが帰ればいいだけの話。」

ロン毛おじさん: 「立ち上げ期は、いかに同じ温度感で共に全力疾走できるかどうかが重要になる。だから、年齢とか関係なく、変な気遣いは無しで、お互いが成功させるために必要だと思うことを徹底していこう。」


自然体なのにあふれ出る男気。
すでにラストマンとしての覚悟をバシバシと感じる。
今までは「何を言うか」が重要だと思っていたが、本質は「誰が言うか」なのか。

「年齢とか関係なく」とか言うから、20歳も年下の若造からロン毛とか呼ばれるんだ。
私は全く悪くない。

すべての迷いや不安が一瞬にして吹っ切れた。むしろすでにワクワクでいっぱいだった。

将来、「人生でターニングポイントだったなと思った瞬間はいつですか?」と聞かれたら、


「もちろんロン毛おじさんです。」


そう答えている自分がいる。
そんな予感がした。


つづく

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