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【読了 2024 No.20】横道誠編『みんなの宗教2世問題』(晶文社)読了。

「宗教2世」問題が一般的に認知されたのは、安倍晋三元首相の狙撃事件が契機だったことは間違いないだろう。

しかし、この問題はずっと昔から存在していたのである。


第1章は、過酷な体験を経てきた宗教2世当事者達の手記である。やはり、問題を解決するに当たっては、このような当事者自身の発言というものを聞くことこそ、何よりも優先されると感じた。


そして、かかる手記を読めば読むほど、子供の発育に悪影響を与える程、信仰活動に没頭してしまう親はいったい何を考えているのか?…という疑問と憤りが湧く。

さらに、その親は圧倒的に母親が多いことも気になってくる。

山上容疑者の場合も、過度な献金を繰り返していたのは母親であった。


この信仰に没頭してしまう母親側の心理を見事に表したのは、第3章の信田さよ子さんの寄稿であった。


信田さよ子さんは、アダルトチルドレン問題で知られているカウンセラーである。私がアダルトチルドレン関係の書物を読み漁っていたのは1990年代後半で、それより少し後から精力的に執筆活動を開始された方だったので、お名前は存じ上げながら、著書は読んだことなかった。


さすがだった。


信田さんのとに、お嬢さんの拒食症問題相談で、わざわざ飛行機に乗ってカウンセリングを受けに来ていた母子がいた。

この家は江戸時代から続く地方都市の旧家だそうで、母親はその家の“嫁”だったそうである。飛行機を使う面からも、経済的には豊かであることが分かるが、「地方の旧家の嫁」というだけで、その抑圧的な家庭の空気は想像できて余りある。

さすが信田さんなのだな。カウンセリングが続くうちに、問題の背後に母親の「エホバの証人」に入信が、あったことを告白させる。

以下「」内は引用である。


「彼女は、『分かっています。私が全部悪いんです。夫と別れる勇気がなかったんです』と泣いた。しばらくうつむいて涙を流していた彼女は、顔を上げ私を見つめてきっぱりと言った。『私が一番苦しかった時に救ってくれたのは教団です。家族も友人も誰ひとり理解してくれなかったんですよ。私は、これからも教団を疑うことはありません』」


信田さんによれば、「エホバの証人」の女性信者が入信したきっかけは、「夫の浮気や暴力、家父長的な大家族の中での抑圧など」だという。山上容疑者の母親も夫(=山上容疑者の父)の暴力に苦しんでいた。


このように苦しんでいた女性にとって、「初めて存在を認め」てくれて「(行動)指針(=せねばならないこと、してはならないこと)を与え」てくれたのが信仰だったと、だから彼女たちはその信仰に救いを見出しすがっていくのだと、信田さんは分析している。


宗教2世の救済の前に、夫のDV問題からの妻の救済こそが大切なのではないか?と思ってしまった。



昨年読んだJoe著『離れたくても離れられないあの人からの「攻撃」がなくなる本』(SBクリエイティブ)と、そのマンガ版『マンガでわかる あなたを傷つけるあの人からの攻撃がなくなる本』(飛鳥新社)によれば、DVに苦しんでいる妻が実は離婚を望んでいないという事実である。


最近は行政もDV問題の窓口を設けるなど、何もしていないわけではない。しかし、行政の支援に頼ると、離婚を前提に話が進められてしまう。だから、彼女たちは「離婚しない」を前提としたJoe氏のカウンセリングの門を叩くのである。


幸福な家庭を営んでいる女性たちには、この夫のDVに苦しみながらも離婚を望まない女性が不可解かもしれない。

しかし、私の母はやはり父のDV(殴りはしなかったが、怒ると物を投げまくる、大声で怒鳴る、部屋にこもって施錠してレコードを最大音量にする)を受けながら、離婚しようとはしなかった。

口では、「あなた方がいるから、私は別れられない」と言っていた。そう言われ続けてきた私は、一旦大学院進学を諦めて、大学を卒業してすぐに就職した。ところが、母は離婚の準備をする素振りは全く見せなかった。それどころか、社会人になった私に大学院進学を勧めてくる始末。


何故、彼女たちは離婚しないのか?

勇気がないから?


それもあると思うが、一番の問題点は、専業主婦は、一旦離婚してしまうと、突然経済的貧困に陥るからである。


夫の年金の問題もあるが、それ以上に性別賃金格差問題がある。

女性の賃金格差は、女性に非正規雇用が多いからだけではない。

同じ仕事をしていても、男女には大きな賃金格差が出てしまうのだ。


私の予備校でも、同時に採用された男女の講師の同じだった講料単価が、三、四年目にはかなり格差が開いてしまう。

一度も産休も育休も取っていない女性講師でさえ、同期の男性講師との賃金格差が開いてしまう。

この格差の拡大は大企業にも見られるらしい。問題の根は、日本の潜在的男尊女卑的社会風土に根ざしているのだろう。


こんな女性にとって抑圧的な環境の中で八方塞がりになるからこそ、妻たちは精神の逃げ場として宗教に没頭して、結果として母親として子供を犠牲にしてしまっているという構図が見えた。


男尊女卑が根強いとされたメキシコでも女性大統領が誕生した。

日本社会も変わっていかないと、少子化で貴重な若者達を、病んだ母親に疲弊されたり、怪しい宗教に絡め取られてしまうだろう。


そんな危機感を感じた有意義な読書体験だった。


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