【2024 読了No.11】細谷功著『具体と抽象-世界が変わって見える知性のしくみ-』(株式会社ZERO)読了。
作者の主張を一言でまとめれば、具体的な表現の方が分かり易いが、抽象的な表現の方が汎用性が高くなり、活かし易いということ。
作者によれば、世の金言と呼ばれるものは、ほぼ皆抽象的な表現だからこそ様々な状況に当てはめられ、教訓として活かせるのだと。また、「歴史に学ぶ」というが、それが可能にするには、抽象化して人間社会の法則レベルまで昇華して把握してこそなのである。
予備校の日本史講師の私的にアレンジした具体例を使って作者の主張を説明してみよう。
「急激な変革が、非効率的とはいえ機能していた流通経路を分断させて、かえって物不足を招いた」
と、ここまで抽象化させれば、
江戸時代の水野忠邦の株仲間解散令の失敗と、ゴルバチョフのペレストロイカの失敗は殆んど同じものになるということ。
ゴルバチョフが水野忠邦の天保の改革を学んでれば、ペレストロイカは失敗しなかったかも知れないわけである。
(学ぶワケないか😅😅😅)
ペレストロイカは世界史⁉️
そんなことないよ。
旧科目『日本史B』でも新科目『日本史総合』でも、ゴルバチョフのペレストロイカは(日本史教科書シェア最大の)山川出版社の教科書に載っている。ましてや新科目『歴史総合』となれば、ペレストロイカは絶対避けられない。
閑話休題😑
抽象化するメリットの具体例を、私がわざわざ作って感想文に書いたのは、それだけこの本には具体例が乏しかったからである。
更に残念だったのは、本全体での論の展開が無いこと。
だから、どこに何が書いてあったか?読み返すのが億劫になる。
論の展開が明確になってない上に具体例が乏しいと、どんなに内容がよくても、それは記憶に残りにくくなるわけである。
最も残念だったのは、薄くてそれほど内容が多岐にわたっているわけでもない本を、20章にも分けてしまったことだと思う。
そのために、要点が散らばってしまった。
多分、どこから読んでもいいスタイルにしたかったのだろう。
しかし、各章の題名が洗練されていなくて、ちゃんと読んだ人間でも、その題名を見ただけでは、「何が書いてあったか」すら思い出すことができないのである。
「抽象化する力を持つメリットとは何か?」というテーマを明確に打ち出して、論を展開して、読む人を説得していくスタイルにしてほしかった。
それができなかった理由は、意外な所にある。
作者が、すぐに分かりやすさを求める人や、具体的にしかものを捉えられない人を見下しているからである。
冒頭に、
「世の中、何ごとも『わかりやすい』方向に流れていきます。」って持ってきたのは失敗であろう。
私も冒頭から反発してしまった。
作者は分かり易さを求めるような人を説得することは不可能と諦めている。
作者のこんな斜に構えた態度が随所に感じられ、読んでて不愉快だった。
私のように抽象化の必要性を痛感して本を開いた読者なら読み続けられる。でも、「抽象化なんて分かんないけど、大学のセンセーが『抽象化しろ』って言うから読んでみた」という大学生の心を動かすことはできないだろう。
「この本、なんかムカつく」と途中で投げられるのがオチ😅
そんな冷たい眼差しになるのは、作者がビジネスコンサルタントであるのと関係しているのかも知れない。恐らくは「木を見て森を見ず」なクライアント達に、辟易としているのではないか?
かなり後に出版された同じ著者の『具体抽象トレーニング』(PHP新書)を先に読めば良かった。出版社がメジャーだと、編集者が有能なのでこんな残念な形にはしていないだろう。
買ってあるので読むつもりだが、その前にはとりあえず、温かい情熱を持った作者の本が読みたくなった。
なんだかんだ言って池上彰氏の本がいいのは、彼にはまっすぐな「読者に分かり易く伝えたい」という温かい気持ちがあるからだろう。
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