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何度でも読みたいnoteの引き出し

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何度でも読みたいなぁ・・・と思ったnote、トラックバックのように大々的に紹介はしないけれど、誰かにもおすすめしたいなぁ・・・と思ったnoteを、そっとしまう場所です。ときどき、…
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2020年11月の記事一覧

【短編小説】季節の小部屋

 大きな窓のある晩秋の小部屋が、その少女の仕事場でした。  少女に与えられた仕事は、窓の外に広がる秋の終わりを記すことでした。例えば、今年の葡萄はどのように実り、陽の照り返しにどんな色を見せて熟れたのか。鹿の群れはいつ出発し、どこで越冬するのか。晩秋の小部屋は、初秋や秋半ばの部屋から受け渡された資料でいっぱいです。さらに、各地から報告がやってきます。それらのすべてを確認し、間違いないように記さねばなりません。  仕事を選ぶ歳になったとき、秋と読み書きが大好きな少女は、迷わず季

こころのいちぶ

ねぇ、私たちがたくさん体を重ねた時間。 私にとっては、あの時間は とても美しい時間だったんだよ。 生まれて初めて 大事に抱きしめられた 星空みたいな時間だったんだよ。 ねぇ、あなたにとっては、どうだった? あなたのつらさや苦しみを あなたがくれた温もりの半分でも あなたを私は包んであげることが 出来たのかな。 分からない 今でも、あの時も。 あなたにも、私にも、家族があった。 始めてはいけない恋だったし 続けてはいけない恋だった。 でも、本当に

キセツハナクナラナイ

昔、大阪のバーで出会ったイギリス出身の黒人の女の子が、「世界で1番ヘルシーな料理は、日本食よ。油分も少なくて、ソースをかけたりしない。薄味だし。」と、言った。 しばらく考えてみたあと、あるいはそうなのかもしれないなぁ、と思い至った。南国の方は甘い味付けになりがちだし、北過ぎると青菜が栽培出来ず、芋類が主食になる。 青菜も米も野菜も果物も、麦も蕎麦も栽培できて、濃い味付けでなくても食材の色々な味が楽しめる。それは、あらゆる食材が栽培出来る気候風土に寄るところがあるかも。

18歳差の恋愛において、大切なこと

ぼくの妻は18歳年上です。 出会った時から大切な人で、それは14年経った今も変わりません。むしろ、日を重ねるごとにその想いは強くなっていきます。彼女と出会って、ぼくは大きく変わりました。彼女が好きだった美術や陶磁器、花が大好きになりました。生きる姿勢、人への思いやり、想像力と共感力、誠実であるということ。 彼女の存在抜きに今のぼくは説明できません。彼女のことを誰よりも尊敬し、誰よりも愛おしく想っています。つよさも、よわさも、すべて含めて。 先日、「いい夫婦の日」に二人の

炎上しないために、今できること

SNSを利用していると、「炎上」という現象をよく目にします。 ぼく自体はこれまでに「炎上」に対して、何か言及してきたことはありません。騒ぎが収まっていく光景を静かに見つめてきました。「関心がない」ということではなく、また、自分の中に考えがないというわけではありません。関心もあれば、考えもある。ただ、何かを発言する際には、できる限り慎重であろうと努めます。そこで燃え上がっている炎は、たまたま自分ではなかっただけなのだから。 一部を除く、ほぼ全ての「炎上」は故意に起きたことで

小糠雨の季節に【リライト版「霧雨の中、桜の木を傘にして」(約2600字)】

 そこは多くの小学生たちの通学路になっていましたから、子どもの姿は見慣れたものでした。ながく、その場所にいるわたしほど、たくさんの子どもの顔を見てきた者はいないのではないでしょうか。わたしには子どもの違いなんて分かりません。どの顔も同じに見えてしまいます。  その代わり、わたしは草木の顔ひとつひとつ、その違いを知っています。たとえばあなたはクローバーの違いなんて分かりませんよね。分かるとしたら三つ葉か四つ葉のように葉の数の違いくらいでしょうか。わたしにとって、わたしの前を通

走れないふたり -睦ぶ-

また撮ってください。 メールが届いた。 もう3年経つのか。 もちろん覚えている。 ドレス姿であれほど走れる人は、そうそういないもんな。 昔のドラマのように街を疾走した。のばした彼の手を彼女が掴んだ瞬間、傑作の予感がした。予感にたがわず素敵な写真をものにした。風になった二人。車にひかれかけた僕。 また撮ってください。 その言葉に導かれ福岡の東に出向いた。運動公園。走るにはもってこい。 しかし、現れた二人を見てすぐに気づいた。あぁ、今日は走れないな。口元がほころぶ。

受ける月

遠くで猫が鳴いている 今日は月齢27 受ける月 全ての祈りや 想いを乗せて 暗い夜空にどんぶらこ 目を閉じて見た夢は 月の船から溢れでた沢山の星屑 音もなく進む船から 黄金の川が流れる キラキラ光るその欠片は 地球上のどの生き物の上にも 万遍なく降り注ぐ 静寂の音がする 薄い柔らかな月の光の中で 願い事なんてしないけど 私にも誰かの祈りが降ってくる そうやって 少しずつ少しずつ 誰かの祈りや気持ちがみんなに染み込んで お互い様で それは おあいこ