【嫌いなアイツとゾンビと俺と】第1話

【あらすじ】

 水保学園高等部に通う御神楽歩樹は、同じクラスの真鍋空斗のことが嫌いだ。明るい人気者で輪の中心の歩樹と、一人でいる事の多いクールな空斗は馬が合わない。
 だが学園祭の出し物の班が同じになり、二人で買い出しに行くことに。そしてホームセンターへと訪れた結果、ゾンビと遭遇する。剣道をしている空斗が強引に歩樹の手を取り、二人はゾンビから逃げる。
 その経緯でゾンビを倒すための薬があると知り、それを届けるために二人でテレポートを目指す事になる。
 途中で銃を手に入れたサバゲが趣味の歩樹は、刀で道を切り開く空斗と次第に息がぴったりになり、二人でゾンビを倒しながら進む。そしてそれぞれを認め合う。

 *** 第1話 ***

 世の中には、生理的に受け付けない――とまでは言わないが、反りが合わない相手がいる。御神楽歩樹みかぐらあゆきがそう確信したのは、高等部二年のクラス替えの時だった。今もイライラして、右手の指先で机をダンダンダンと叩いている。少々つり目の黒い大きな目が眇められていて、短い同色の短髪が左手で頬杖をついた時、僅かに揺れた。

 この水保学園では、毎年春にクラス替えがある。中等部からの全寮制の一貫校なのだが、マンモスとまでは言わないものの、かなりの数の生徒がいるため、春までは宿敵である真鍋空斗まなべたかとのことを、歩樹は認識すらしていなかった。

 同じクラスになった当初も、ただイケメンだなぁ程度に思っていたものである。女子達が騒ぐからだ。剣道部らしく春の新人戦で優勝したと聞いた頃くらいから、目に付くようになった。

 歩樹はどちらかというと、クラスの男子と親しくつるむ方なので、ある日空斗に声をかけた。

「すごいな、優勝するなんて」
「……ああ」

 すると少し間を置いて答えた空斗は、気怠げに切れ長の目で瞬きをした。元々色素が薄いようで、髪の色も目の色も薄い茶色の空斗は、それだけでも少し目立っていた。百七十三センチの歩樹よりもだいぶ背が高く、女子が噂していたのが聞こえてきたかぎり、百七十八センチと五センチも高いのだとか。均整の取れた体つきは、剣道のたまものらしい。

 一方の歩樹は、どちらかというと平凡を地で行く方で、趣味はといえばサバゲだが、この人口島・六島ろくとうにある閉鎖的な学園都市では、遊ぶ仲間もいないからと、一人でモデルガンを弄って遊ぶ程度である。

「この前のテストも一位だっただろ? 文武両道っていうの?」

 反応の薄い空斗に、歩樹はさらに話しかける。いつも輪の中心にいる歩樹とは異なり、空斗は男子とも女子とも一歩距離を置いているようなところがあったから、ちょっとした好奇心があったし、輪には入れないのならば、せっかくなら親しくなるきっかけを作りたいと歩樹は考えていた。

「あんな簡単なテスト、誰だって勉強すれば一位を取れるだろ」
「うっ」

 中の中の成績だった歩樹の笑みが引きつる。

「というか、お前、御神楽だったか? いつもうるさいんだよ、教室で」
「なっ」
「勉強する空間だろ? 無駄な喋りに俺を巻き込むな」

 ぴしゃりとそう述べた空斗の瞳は冷ややかだった。唾液を嚥下した歩樹は、苛立ちと無力感が綯い交ぜになったような心境になったものである。

「悪かったな。いつも沈黙して気取ってるお前と違って、俺は友達が多くてな」
「仮に俺が気取っているとして、そこで御神楽が気取ったとしても、様にはならないだろうな」
「なんだと!?」
「事実だろ、お気楽そうなそのアホ顔、もう少し引き締めたらどうだ?」

 失笑するようにそう言われ、歩樹はカチンときた。普段はそう沸点が低い方ではないというのに、初めて話すに等しい相手にこのように悪し様に言われたら、頭にもクる。

 この日はそこでチャイムが鳴ったので、会話は終了した。
 以降だ。
 歩樹は空斗が嫌いになったし、必要がなければ空斗の方だって目を合わせようともしない。周囲が、そんな二人を熱と氷のようだと表し始めるまで、そう時間を要しなかった。相性は火と油だが。

 こうして反りが合わない相手、性格があわない相手がいるという事を、歩樹は思い知ったのである。

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