てぃくる 753 失う/得る
「ええ。確かに何かを失ったように見えるかもしれません。でも、最近気づいたんですよ。黒くなったのは色を失ったからではなく、色を得たからだということに。色としては同じに見えても、意味が全く違うんですよね」
サルノコシカケの仲間。まるで焦げたように真っ黒になっていました。でも、焼けて黒くなったとは思えなかったんです。きのこの周囲に火の影響を示すものは何もありませんでしたから。
つまり、このきのこは焼けただれて色を失い、それで黒くなったのではないのでしょう。自他のなんらかの営みの中で、黒い色を得たのです。
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わたしたちは、視覚で得た情報にバイアスをかける傾向があります。
たとえば、路上でうずくまっている女性の横で、男が二人取っ組み合っているのを見かけたとします。わたしたちはとっさに思うでしょう。人相が悪い方が女性を襲い、イケメンくんがそれを阻止しようと敢然と戦っている、と。でも、それは全く逆かもしれないんです。
固定概念によるバイアスはとても厄介です。黒だってそうなんですよ。どうしても、黒という色から悪、闇、劣化、失望、沈鬱……そういうイメージを連想してしまいます。その色がなぜもたらされたかという起源を考えず、短絡的に受け止めてしまうんです。
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自然界では、黒という色がそれほど目につきません。ですのでもし黒いものを見つけたら、じっくり観察してみてください。その黒を「得たもの」だと考えた場合、思わぬ発見があるかもしれません。
寒堂や煤といふもの滅びゆく
(2021-01-09)
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