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くさぐさのふみ

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2019年10月の記事一覧

起きるたび深くなる眠り

起きるたび深くなる眠り

まだ赦されないのか――最初の寝覚めで、彼はまずそう思った。そして、またすぐに眠り始めた。

つらい、かなしい、何でわたしがこんな目に逢わないといけないのだろう――彼はやりようのない怒りで揺れ、涙を流した。永遠かと思うほど泣き続け、それでも疲れ果てて眠りに落ちた。

彼は自由だった昔の頃を思い返していた。素晴らしいとき、何の制約もなく、行きたいところにはどこにでも行け、全てのものを手にし

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名無しの夏子さんの存在について

名無しの夏子さんという存在について、話したいと思う。

「名無しの夏子さん」「くねくねとした直線」「透明な木の板」「黄色い赤緑」

こういったものを言い表せられるのが、言葉の強さであり、また脆さでもあるだろう。それがどれだけ矛盾を含み、実存を許されないものだとしても、書き記し、言い切ることが出来る。

勿論それらの言葉に身は無く、実感は湧かないのだから、心無いものと言えるかもしれな

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