見出し画像

角田光代『対岸の彼女』を読んで

人は誰も孤独だ。だからこそ友達を作って遊んだり、仲間とつるんだりして、孤独を和らげようとする。もちろん生物学的に人は集団にならないと生き延びられなかったという歴史もある。
そして、学校や会社など人の集団は自然にグループ分けされていく。

しかし、孤独が好きな人もいる。孤独が好きと言っても、年中孤独でいられるわけではなく、たまには最小限の人と交わりたくなる。
楢橋葵もその一人だろう。集団の中で違和感を感じ、学校の外で唯一の親友ナナコとだけ付き合う。

ナナコの行き方は葵に大きな影響を与えた。いつの間にかナナコの思想が葵の思想に移っていた。

葵は自分に誠実に生きてきた。しかし、自分に誠実な人は誤解もされやすい。素直な言葉もあまりにも素直すぎて裏があるように思われてしまうのだ。だから皆、KYと呼ばれないようにまわりに合わせて自分を隠してしまう。(KYが流行った頃、空気を読めないの意味だと聞いて、空気を読めるだってKYじゃないかと思ったことを思い出した。)人間社会で暮らしていく中で、自分に誠実に生きることほど難しく、孤独になりやすい。それを思うと、葵の大人になり方は格好よくも見えてくる。

人はそれぞれ自分だけの岸にいるのだと思う。友達をたくさん作りたい人は岸と岸の間にどんどん橋を架けていく。仲違いすれば橋を壊せば済む。逆に信頼できる友達が一人でもいればいいと思っている人は橋をひとつだけ架ける。しかし、その橋でさえ年とともに古くなり、崩れ去ってしまう。

葵にとってナナコとの橋は消えてしまったが、唯一の救いは、最後に小夜子との橋は崩れる前に修復ができたことだ。
この先、二人はどこまでたどり着けるのだろうか。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?