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川上未映子『わたくし率イン歯ー、または世界』を読んで

川上未映子の小説デビュー作。『乳と卵』と同じように、関西弁の話し言葉がそのまま文章になっている。究極の口語体。小説はテンポ良く進んでいく。(関東の人にはやはり読みづらさがあるが)

主人公は、いつも自分とは何か、自分は何故この世に生まれたのかを考えているような劣等感の固まりで、唯一歯がきれいなことでしか自尊心を満足させられないわたし。特に奥歯に執着心を持っている。

自分の存在を認めてくれる人として、青木という恋人(?)かいるが、なかなか会えない。
そんな孤独感を満足させるためなのか、妊娠もしていないのに、自分の子供に何通も手紙を書く。(手紙の日付が順不同なのは意味がわからなかった)

奥歯と奥歯で繋がりを深めたかったわたしは、青木に彼女がいることを知り、青木の奥歯を抜こうとする。青木=青木の奥歯だから、奥歯さえあれば通じ合えると考えたのか。

わたしにとって奥歯は主語であり、わたしという存在は奥歯があることで成り立っている。
そんな奥歯をわたしは抜く決心をする。この行為は一種のわたしという存在の破壊であると同時に、新たな自分に生まれ変わろうとする意志でもあるのだろうか。それとも青木との決別なのか。あるいは主語(わたしという意識)がなくても生きられる世界を見つけて、奥歯の必要性を感じなくなったのだろうか。

最初読んでみて、訳の分からない小説だなと思ったが、そこらじゅうに川上未映子の独特の感受性が散りばめられており(書名からして川上未映子しか考え出せないだろう)、デビュー作ということで川上未映子の本音も多く含まれているのかなと思うと、興味深く読み終えた。
とにかく感想を綴るのが難しい小説だった。

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