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パンプスが履けない話

「痛いです。無理です。」

「みんなこんなもんです。履いてたら慣れます。」

大学入学前に、スーツ一式を購入する。靴下、スカート、パンツ、シャツ、ジャケット、ベルト、カバン。お店の人の質問に適当に答える。違いも何もわからなかった。正直、「なんでもいいです!」と思っていた。

ただ、パンプスだけは違った。いや、無理。歩けない。お店の人は当たり前のように言った。「みんなこんなもんです。慣れます。」この一言で私のパンプスに対するイメージが形作られた。みんな我慢しているのかぁ。ならこれに慣れるしかないか。高校のローファーも最初靴擦れしたもんなぁ〜。

入学式。大学を出てすぐの急な坂道で、私は歩けなくなった。行きも痛かったのだが、帰りは坂によってよりつま先に重力がかかる。私の10本の足の指全てが「無理!無理です!!!」と叫び、足の側面は「窮屈!狭い!」と泣き、かかとは「カパカパしてる!皮がめくれる!」と訴えていた。靴を脱いで裸足で坂を駆け下りたいと思った。スニーカーの2倍くらいの時間をかけて家に帰った。あとから聞くと多くの女学生が同じような体験をしていた。

もう一生パンプスは履きたくない!と思った。入学式がもはやトラウマで、ヒールのあるサンダルも買いにくくなった。

かるたの運営でスーツを着る機会が何度もあった。パンプスを履くと、自宅から駅までの道のりでもう限界になる。スニーカーなら走っていける大津京から近江勧学館までも、タクシーに頼る。歩けないので、働きにくい。スーツ運営のときもスニーカーを履いていくことにしてしまった。

私は足を気にせずに働きたかった。畳の上ではパンプス履かなくていいし。幸い、指摘されることはなかった。誰も人の足元なんか見ていない。走って動き回れる人材の方が大切だと私でも思う。

名人戦クイーン戦の運営を手伝ったときはさすがにパンプスで行ったのだが、足が痛すぎて帰る前にペタンコな靴を購入して履いて帰った。

だってさ!地面って真っ直ぐなのに、靴が斜めなんだよ!指って広がってるのに、靴が尖ってるんだよ!デザインの敗北!!!

そんなこと言っても、今の社会でどうしてもスニーカーではいけない場面がこれからたくさんやってくる。まずは就活。そういう訳で私はようやく重い腰を上げて履きやすいと評判のパンプスを買った。ちょっと有名なお店に行って相談して、合った靴を紹介してもらって、自分の足に調整してもらった。値段は張ったが、だいぶん歩きやすくなった。

それでもスニーカーLOVEの私からすると歩きにくさはストレスだった。最初の靴が悪いのではなくて、やっぱり「パンプス」という存在が悪いのだとわかった。どうしてもやっぱり「みんなこんなもん」なのだ。

たくさんの働く女性がパンプスを履いている。パンプスを履いてスーツを着て、保育園まで赤ちゃんを抱っこして連れていくママ。男社会で舐められながらもがんばるお姉さん。セクハラを受け流すお姉さん。電車でお年寄りに席を譲るお姉さん。かっこいい。かっこよすぎるよ。すごいよ。もっと、楽だったら良かったね。かっこいいけど、憧れたらだめだし、憧れられない。

私は、優先座席でも座りたいし、ちょっと歩いたら休憩したいし、走れないし、常に足が気になる。「伝線しにくい」と書いてあったストッキングも1日で破れた。就活メイク?なにそれ。就活はまだ先が長いのに、「形」を整える段階でもう折れてしまいそうだ。こんなにやってコロナの影響による就職難?家事育児は女性の仕事?結婚したら仕事を辞めなきゃいけない?そんなことがあってたまるか。

私の足の形がパンプスに向いていないというのはある。でも、「みんなこんなもん」だとしたら、もっとダメじゃん。かっこよく働きたいけど、それってスニーカーじゃだめなの?働きやすくしてパフォーマンスをあげる方がいい。

怪我をしたり、歩けなくなったり、疲れやすくなったり、働きにくかったり。「形」のせいでパフォーマンスの「質」が低下しては元も子もない。こんな無理のある靴、私がどうこう言わなくても絶対にいつか淘汰されるだろうとは思う。

「スニーカー可」と明記される会社や、「就活スニーカー」なるものが発売される時代が来るだろう。もうそれを訴えに靴の会社の面接に行こうかな。

保証されているはずの健康で文化的な最低限度の生活に「普通に歩ける」ことはどうやら入っていないらしい。健康でもないし、生きにくい文化なんか文化として認めてはいけない。

やっぱり靴の完全自由選択権を公約に政治家になろうかな!!!みんなー!投票してね!!!


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