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短編小説、物語いろいろ

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「巴の龍(ともえのりゅう)」「love's nigt」「ある独白(我が永遠の鉄腕アトムに捧ぐ)」「カオル」「甲斐くんの憂鬱」続々増えるよ
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2021年10月の記事一覧

カオル #6

遠くで家のチャイムの音が鳴ったような気がした。 それは長い間隔で二回、 それから けたたましく続けて鳴った。 晃二は夢から急にさめたように飛び起きた。 となりには まだカオルが  けだるそうに 横たわっている。 あわてて服を身につけると、一階に下りた。 ドアを開ける前に玄関の鏡が目にとまり、 あわただしく身づくろいして、身を整えてドアを開けた。 「な~んだ、いたんだ。 いないかと思って、帰ろうかと思ったぞ。」 顔をふくらませて立っていたのは クラスメイ

カオル #7

「晃二のおねえさん?わ~!きれいな人!」 柚季は はしゃぐように言うと 急にあらたまって 「晃二と同じクラスの宮野柚季(みやの ゆき)です。 今日は晃二にお誘い受けちゃって、来ちゃいました。」 と照れくさそうに言った。 お誘い受けたってなんだよ。 誘った覚えないぞ。 それに 呼び捨てかよ。 いつ そうゆう仲になったよ。 しかもカオル、なんで今 出てくるわけ、 女装のままで・・・。 晃二が頭をおさえながら首を振っていると いつのまにかカオルが柚季を家に招

カオル #8

「もうやめろ、晃二。」 カオルが柚季の方にあごを振った。 晃二が柚季を見ると、涙を浮かべて・・・ さらに驚いたようにカオルを見ている柚季がいた。 晃二がはっとしてカオルを振り返ると、 案の定、カオルは しまった というように 口を押さえている。 「あ~あ、失敗しちゃったい!」 カオルは伸びをして柚季に向き直った。 「ごめんね、俺、晃二のアネキじゃないんだ。 同居人。 で、ちょっと遊んでてさ。ま・・・ 度が過ぎたかもしれないけど。」 カオルは気まずそう

カオル #9

何言ってるんだ。 自分の言ってることがわかってるのか。 晃二もカオルも 驚いてあいた口がふさがらない。 「ほら、よく好きな芸能人なんかの追っかけとかして その人にあげちゃう人とかいるじゃない。 一回こっきりでもいいから、 この人って思った人がいたら、 最初の人にしようって 決めてたの。」 柚季が下をむいたまま、恥ずかしそうに 説明した。 晃二は何と言ったら良いか、すぐ言葉がでなかった。 カオルはもっと 戸惑っているだろう。 「だから、最初の相手が俺って

カオル #10

「っや・・・そうじゃなくて、つまり・・・。」 「晃二、困ってたろ。 だから、金髪ちゃんが二度と家に来ないようにしただけさ。」 え?それって俺のため? 「じゃあ、その気はないわけ?」 「あたりまえだろう。今日会ったばかりの子を、 ハイそうですかって、なんで抱けるんだよ。 それに、このあたり以外でよほどのことがない限り、 偶然会うなんてこと、あるわけないじゃないか。」 あぁ、そうか。 晃二はうなずきながら、はたとカオルを見ると、 カオルはもう二階の自分の部屋

カオル #11

入学式・・・なんのことだろう。 「たまたま となりになってさ、 ちょっと 話したじゃない。」 「となり、金髪の子じゃなかったぞ。」 うん、と柚季がうなずいた。 あれ・・・もしかして、染める前なのか。 「その時、晃二となんとなく話がはずんでさ、 晃二『今度遊びに来れば?』って言ったじゃない。」 そういえば、そんなことあったかも・・・。 「それから自己紹介の時、中学が一緒の子が少ないから 早く名前で呼び合える友達がほしいって、言ってたよね。」 たぶん・・・言

カオル #12

「だからね、それからほとんど家に帰ってないの。 友達のところにプチ家出。 学校もさ、なんか かったるくてさ。」 柚季は ちょっと笑った。 「友達の友達に、 晃二と同じ中学のやつがいてさ、 たまたま 家 教えてもらったの。 でも、遊んでるけど、男とは遊んでないよ。 カオルさんに言ったことは本当のことなんだ。」 柚季の目が また恋する乙女のまなざしに変わった。 「あのさ、きわどいこと、聞いていい?」 晃二は咳払いしながら 横を向いた。 「本当に・・・一回き

カオル #13

あれから ひと月あまり。 「き・・・金髪ちゃん、学校はどうしたの?」 カオルが泡食いながら言うと 「いつものさぼりで~~す。」 と 柚季がおどけた。 そしてカオルの腕を組むと 「やったー!運命の女神がほほえんでくれたぁ~!」 と カオルに向かってニッコリ笑った。 「今日ね、なんとなく学校行きたくなくってさ、 あんまりこのへんで買い物しないんだけど なんか来てみたくなっちゃって。 もう、最高!」 カオルは柚季と顔を合わせないように斜めをむきながら、 ど

カオル #14

カオルは ぼんやりと柚季の様子を見ていた。 行きがかりとはいえ、約束は約束だ。 そう思ってここまで来たけれど、 約束を果たす自信がない。 かと言って いまさら逃げ出すわけにもいくまい。 「あのさ、本当に俺でいいの?後悔しない?」 カオルが確かめるように言うと、柚季は洗面所の方から 「なあに」と顔を出した。 カオルはもう一度 同じことを聞いた。 「だからね、金髪ちゃんは、本当に俺でいいの?」 ひとしきり部屋をながめていた柚季は、 もどりしなに うなずきなが

カオル #15

「なんだよ、お兄さんて。」 「晃二が言ってたの。 カオルさんは親戚だから、お兄さんみたいなものだって。 だからカオルさん、私みたいな不良娘と、 晃二がどんな付き合いしてるのか 気になるんでしょう?」 お兄さん・・・か。 あぁ、というようにカオルは うなずいた。 柚季は口をとがらせて、プイと横を向いた。 「なあんだ、やっぱりそうか。 私と晃二のこと、ちょっぴり ヤキモチ焼いてくれたら・・・ なんて 期待しちゃった。」 柚季は カオルに向き直った。 「大丈

カオル #16

「カオルさん。」 柚季に声をかけられて我に帰った。 「カオルさん、もしかしてホテルに来たの 初めてじゃないよね?」 「な・・・何行ってるんだ。んなわけないだろう。」 「だよね、そんなわけないよね。 まさかカオルさんが、そんなこと、 あるわけないよね。あ~よかった!」 柚季に言われて、カオルは咳払いした。 「馬鹿なこと言うなよ。 そ・・・それより、その・・・。」 カオル焦りながら、最初の質問を思い出した。 「何度も言うようだけど、大切なことだから。 そ

カオル #17

柚季はシャワー室をでて、 カオルの待つベッドへと向かった。 期待で気持は昂揚し、胸がはちきれそうだった。 部屋には誰もいなかった。 ベッドに座っていたはずのカオルは消えていた。 柚季は最初 何が起こったのかわからず 立ちすくんでいたが、やがて事態を理解すると その場に座り込んだ。 ショックで涙が頬をつたった。 カオルは柚季を傷つけることより ひきょう者になることを選んだのだ。 柚季はそれから十日間 学校を休んだ。 やっと 出てきた日も、晃二をまともに見

カオル #18

「カオル、ホテルから逃げたんだって?」 いつものようにノックもせずに部屋に入ってきたカオルに 晃二は開口一番 こう言った。 「柚季のやつ、あの時 十日くらい学校休んだんだ。 それから たまに学校来ても、無視されっぱなしでさ。 やっと今日、学校さぼろうとしてる時、 校門でつかまえて、無理やり聞いた。」 晃二は机に向い、カオルに対して後ろ向きのまま 話を続けた。 「なんで約束やぶったんだよ。柚季、本気だったんだぞ。 カオルとのことがあったから、もう俺とも話した

カオル #19

「はじめから この約束はフェイクだった。 金髪ちゃんを抱く気なんて まるきりなかったんだ。」 「だったら どうして?」 「あの時、言っただろう。 晃二、困ってるみたいだから 金髪ちゃんが この家に近づかないように、約束したって。」 「俺のせいなのか? 俺のせいだって言うのか、カオル。」 カオルが頭を抱えながら、声を震わせて言った。 「最初からわかってたんだ。 あの日、金髪ちゃんと晃二を見た時から、 必ず二人が付き合うようになるって・・・!」 「カオル、