【フレスコボールマガジン RALLY & PEACE】 杉村秀樹[2]
新しい風
フレスコボールのプレー2日目にして、いきなり女子日本代表ペアとのラリーを打ってもらうことに成功した杉村。それから約1週間後、ふたりに紹介してもらった「フレスコボール関西 Grêmio Vento」の体験会に大学の友人とともに足を運び、多くの選手とのラリーやミニゲームを楽しんだ。
「いつでも、どこでも、誰とやっても楽しいスポーツだなってこの日実感しました。僕だけじゃなく一緒に行った大学の友だちも楽しんでくれたのが一番嬉しかったです」。
自分が楽しみ、そして他の誰かが楽しんでくれること。その喜びは何にも替えがたかった。その後も2回目、3回目と足を運ぶたび、「おー、スギちゃん!」と仲間が声をかけてくれた。これまで自ら一歩踏み出して参加してきた「share fes」「ソクスポ」同様、GVKも杉村の大切な居場所のひとつになっていった。
誰よりも大声で。
メンバー内で共有された過去の公式戦の動画を見て、杉村は衝撃を受けた。会場を盛り上げる音楽やMC。青空の下、ビーチで躍動する選手たち。はじける笑顔。そして、選手たちはチームに関係なく、声援を送り合っていた。今までの「スポーツ」の概念が一気にアップデートされた。「大会に出てみたい!」そんな杉村のつぶやきを見逃さなかったGVK松井代表に同じくGVK所属の上西大央選手を引き合わせてもらい、次の公式戦・ミウラカップでの杉村の大会デビューが決まった。
現役大学生の杉村とアラフォーの上西選手のペアは、ミウラカップで「関西から現れた年の差ペア」として注目を集めた。フレスコボールは、いつでもどこでも、誰とでも何歳でも楽しめるスポーツ。この日のふたりの笑顔が、そのことをさらに強く、物語っていた。
「GVKやフレスコボール界にはいろいろな仕事をされている社会人の方がいます。普通に大学だけ行っていたら出会うことのなかったような人、シンプルに面白い人、いっぱいいます。これも、学生の仲間たちに伝えたいフレスコボールの魅力のひとつです」。
ミウラカップの動画たちを振り返りながら、そう懐かしむ杉村。他のペアのラリーの動画に共通して、ひときわ大きな声で、ひときわ楽しそうに応援する声が響く。応援している声の主こそ、杉村だ。
チームに関係なく声援を送り合うその温かさに、かつて衝撃を受けた杉村。今度は杉村自身が、その一員として温かさをつくりだしていた。
「フットワーク」
ミウラカップ終了後、杉村はフレスコボールのラケットとボール、野球のグラブとボールを鞄に詰め込み、自転車で西日本縦断の旅に出た。「share fes」や「ソクスポ」などのスポーツコミュニティで出会った全国の友人たちのもとへ、直接足を運び、会って、話す旅だ。
「フレスコボールも、キャッチボールと同じで“打ちながらコミュニケーションがとれること”が魅力です。かつて僕自身が人見知りだったけど心を開くことができたように、僕が一緒に打った友だちも、ラリーが終わったあとにはさらに心を開いてくれている気がします」。
友人の輪は広がり、結果、杉村はこの旅だけで15人にフレスコボールを体験してもらった。
「GVKの先輩方に、“フットワークが軽いね”って言われることが多いです。ふたつの意味で。ひとつは、旅をしたり、色んなコミュニティに属したりといった行動力という意味。もうひとつはプレー面の意味です。相手の方が少し逸らしてしまったボールも、今までたくさん初心者の方のボールも取ってきたので、フットワークで取れてしまうんです。きっと、周りで一番多くの初心者の人と打っているプレーヤーのひとりなんじゃないかと自負してます」
フレスコボールを一気に好きになったあの日の小澤選手・落合選手ペアとの練習でも、彼女たちがどんなボールでも取ってくれた。どんなときも杉村は、自分がしてもらって嬉しかったことを、今度は他者に与えていた。
「尊敬しているソフトボール選手の本庄遥さんという方がいて。“相手のことをよく観察して、必要だなと思ったときにパッと手を差し出せる人でありたい”とおっしゃっていたし、実際に行動にも移していました。僕もあんな人になりたいなと思っています」。
「旅のお供にフレスコボール」
杉村がSNSで発信し、今では仲間のあいだで杉村の代名詞になりつつあるこの言葉も、旅を始める前には浮かんでいなかった言葉。旅をした先で出会った友人と、その仲間達と話していたときに出来たものだ。
友人が友人を呼ぶ。その輪はどんどん広がっている。今もどこかで、杉村がフレスコボールを教えた友人がまたその友人にフレスコボールを教えている。まだ直接会ったことのないフレスコボーラーもたくさんいる。
「僕が経験した楽しさを、一人でも多くの学生に経験してもらって、さらにフレスコボールを広めていきたいです。今までいろんなコミュニティで出会ってきた熱い学生たちはきっと、それができる人たちばかりなんです」。
杉村には次の夢がある。全国の学生を一堂に集め、フレスコボールの学生大会を実施することだ。既に、準備を始めている。
「最終的には、全国の公園でフレスコボールをやっている光景が自然になっているくらい普及していたいです。そのために各地にインフルエンサーを作っていくことが必要かなと思います。僕たち学生だからこそ出来る事は、まだまだあります!」
新しいスポーツに出会うこと。スポーツを広めること。そして、スポーツでかけがえのない仲間に出会うこと――。
かつての杉村にとって「勝つこと」一択だったスポーツの価値は、自ら一歩を踏み出したことがキッカケの数えきれない出会いとともに、数えきれないほど見出した。その新しい価値は、杉村が自ら足を踏み出す限り、増えていくだろう。
旅のお供に、フレスコボール。想いをつなぎ、そして与える旅は、まだまだ続く。
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