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「ファイト」日和。

「ファイト!」を聴いた日、わたしは10歳だった。

1994年に始まり、一世を風靡したテレビドラマ「家なき子」。安達祐実が叫びながら熱演する姿が今でも脳裏に焼きついている。もちろん、エンディングで流れていた「空と君とのあいだに」も。

「同情するなら金をくれ!」と叫ぶ幼い少女。大人が同情したくなる手厳しい境遇に、何も共通点がないわたしは勝手に共感し、曲の歌詞と自分を無理矢理重ねた記憶がある。

空と君とのあいだには 今日も冷たい雨が降る
君が笑ってくれるなら 僕は悪にでもなる

一度聴いたら忘れられない歌詞。

この曲をお風呂でわたしが口ずさんでいると、父親がCDを買ってくれた。中島みゆきの「空と君のあいだに」8cmシングル。これがわたしの部屋の、新しいCDラックを飾る記念の1枚になった。

CDは、父親の部屋で聴いた。クラシック好きの父の部屋には、当時のわたしの身長をゆうに超える大型スピーカーが2台、テレビを挟むように置かれていた。母親がいつも「売りに出したい」と騒いでいるあれ。「音質が最高だよ」と教えてくれたので、わたしはおとなしく父親の提案に乗ることにした。

聴き慣れたイントロに力強い歌声。スピーカーの影響か、耳の奥まで突き刺さってくるクリアな音に脳内を揺さぶられた。

まるでドラマを見終わった後の脱力感で余韻に浸っていたら、次は不自然に長いドラムの音が聞こえてきた。それは、「ファイト!」という曲だった。

わたしは、この曲を知らなかった。知らなかったけれど、いや知らなかったからこそ衝撃を受けた。

歌詞カードを握りしめ、曲と歌詞を照らし合わせながら目で追ってみた。中島美幸の声は、最初はか弱い少女だったのに、後半に進むにつれて怒りや悲しみを含んでいる気がして、まるで別人に思えた。

カップリング曲がいいと、わたしはテンションが上がる。そして、サブとして納める曲としてはあまりにも勿体ない名曲だと思う。(正確にいうと両A面シングルだが、わたしの中では2曲目=サブ曲という認識がある)でも、多くのアーティストがこの曲に敬意を払い、ひと味もふた味も違った魅力を纏わせて歌ってくれるのは嬉しい。

例えば、満島ひかりさんが歌った「ファイト!」は、カロリーメイトのCMで使われた。

初めて「ファイト!」を聴いてもう10年以上。わたしはこの動画を見たとき、父の部屋のスピーカーで聴いた日のことを思い出す。

そして、そこに「重み」が加わっていたことに気付いた。胸がぎゅっと締め付けられるような、切なさというか。

音楽好きのわたしとしては、初めて買ったCDが彼女で良かったと思う。色褪せたキャラクターシールを貼ったCDラックに、今でも大切に置いている。

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