マガジンのカバー画像

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

89
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
運営しているクリエイター

#山縣有朋

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#77

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#77

16廃藩置県(3) 東京では大隈が木戸に参議の就任を働きかけていた。なかなか就任しようとしていなかったが、西郷も参議にすると決定し受けたことから、木戸も参議に就任することになった。
 また木戸の提案で、制度取調掛というのを設けることになった。木戸や薩摩から兵を率いて東京に戻っていた西郷隆盛や大久保、肥前の江藤新平と大隈重信、佐々木高行、そして馨も入っていた。庶務掛として渋沢栄一と杉浦も参加していた

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#78

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#78

16廃藩置県(4)  馨はまた木戸に面会をするべく動いた。すると、江藤新平のもとに居るということがわかった。面倒なところだと思ったが、時間も惜しいので、江藤の家に行き木戸に話をした。すると帰宅した木戸から馨の家に使いが来て、7月9日木戸の家で薩摩方と会議をするので来るようにと告げられた。もちろん行きますと使いに伝言を頼んだ。
 7月9日は物凄い暴風雨が東京を襲っていた。それでも夕刻、木戸の屋敷に西

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#94

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#94

19 予算紛議(4)

 今日は晴れがましい日になった。鉄道が新橋と横浜の間だが開通した。馨は博文と大隈の資金に関する相談にはのったが、具体的には関係していなかった。それでも、工部省の責任者の山尾と井上勝は、イギリス密航仲間だ。二人の力があればこそ開通できたのだと思うと誇らしかった。
「狂介、流石に直垂姿は様にならんの」
「そういう聞多さんも、布にくるまれているようですよ」
「ふん、まぁええ。そう

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#95

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#95

19 予算紛議(5)

 次に出席者は蒸気機関車に乗り込んでいった。
 馨は山縣、陸奥や江藤と同じ車両だった。席を動かなければ、特にこれといったことはないので、車窓を楽しんでいた。
「狂介、江藤と同じ車両とは」
「聞多さん、席はあちらですから」
「まぁ。渋沢が鳥尾や梧楼に囲まれているよりはましじゃの」
「山尾と勝が席決めをしたのでしょうな」
「あいつら何も考えておらんな」
「気にかけておったら大変

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#120

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#120

22 江華島事件(3)

博文と山縣は、銀座の馨の会社の前で待ち構えていた。
「聞多、用事は終わりか。狂介も暇だというから一緒に待ち構えとった」
「狂介も暇じゃと、そりゃ珍妙じゃな。江華島の始末まだついとらんだろう。いつからそんな閑職になったんか」
馨は、おもわず、言葉尻に絡んできた。
「僕だって、息抜きが必要じゃろ」
「確かにそうじゃな。すまん狂介」
「そうじゃ。三人で騒ぐんじゃ」
博文が妙な気

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#121

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#121

22 江華島事件(4)

 逃げることも、隠れることもできないうちに、また俊輔と狂介がやってきた。
「聞多、今日こそ結論を出そう」
 博文が口火をきった。
「結論?朝鮮への使節の件か」
「そうだ。改めて大久保さんから君を説得してほしいとお願いされてきた」
「聞多さん、大久保さんは君の力が必要だと言っているんです」
 山縣も馨に声をかけた。
「狂介も俊輔もご苦労なことじゃ。だいたいわしには裁判という

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

22 江華島事件(5)

 翌日、博文は出仕すると工部省にやってきた山縣と合流し、内務省の大久保のもとに行った。
「大久保さん、山縣と二人で井上さんに会ってきました。朝鮮使節の件、承諾をしてくれました。それで、井上さんの任官はどうなりますか」
「あぁ、元老院議官でどうですか」
「わかりました。大丈夫です。ただ、条件が」
「条件ですか?」
「はい。自分と木戸さんに、三年間の欧米での留学を認めてほしい

もっとみる