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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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#明治6年

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#101

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#101

19 予算紛議 (11)

 陸軍は薩摩が大勢を占めていたことから、山縣はその進退が問題になっていた。馨は、西郷隆盛と大隈の力も借りて、山縣の処分が寛大になるよう調整をした。とりあえず軍籍はそのままに陸軍大輔の辞任で済ますことができた。
 このことで馨は、以来表立って山縣の支援は請けられず、太政官で孤立を深めることになった。
 誰も入れるなと怒鳴っては、自分の執務室にこもった。
 そして机の上に置

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#103

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#103

20 辞職とビジネスと政変と(1)

大蔵大輔の執務室をノックして入ってくるものがいた。
「馬鹿ぁー」
馨の怒声が轟いた。
続けて大声で言った。
「誰も入れるなと言ったはずじゃ」
そして机の上の冊子を投げつけていた。
「失礼します。あぁあこのようなものを」
気にすることもなく入ってきたのは、渋沢栄一だった。
「はぁ、公議公論ですか。こんどは民権活動家にでもお成りですか」
「そげなもんは知らん。何を

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#104

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#104

20 辞職とビジネスと政変と(2)

 この夜、馨はいつもの店でお気に入りの芸者を置いて酒を飲んでいた。
そこに女将がやってきた。
「井上様、芳川様のお使いが見えられて、渋沢様もお越しのようで、こちらに来てくださらないかとおっしゃっていますが。いかがいたしましょう」
「芳川と渋沢がの。そうじゃの、そちらに参ると伝えてくれ」
 そう言うと、そばにおいていた妓に「すまんが今日はこれまでじゃ」と声をかけ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#105

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#105

20 辞職とビジネスと政変と(3)

 その頃、正院では大蔵省の縮小案が議決されていた。内閣が設置され、参議が法令の作成や予算の審議を行うことになった。
 そのため大蔵省の内局の調査・監査部門が正院の内史に移管されることになった。これは馨の全面的な敗北を意味していた。これを受けて馨は辞任願を三条実美のもとに提出した。
「渋沢の言う通りになったの。おぬしは辞めるのをやめろ」
「井上さん、それは以前の

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#106

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#106

20 辞職とビジネスと政変と(4)

ある日岡田から宴席の招待を受けた。
「ご免官叶いまして、おめでとうございます」
「めでたいことかの」
「我らにとってはめでたいことでございます」
「我らとな」
「造幣権頭の益田孝くんもおやめになったということで、アーウィンという英国人の貿易商人もつれて、合流することになるらしいです」
「そげな話は聞いとらん」
「面白い者たちが集まりそうでございます」
「そうい

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#107

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#107

20 辞職とビジネスと政変と(5)

 馨は工部省に山尾庸三を訪ねた。尾去沢鉱山の件の礼を言うためと、弥吉改め井上勝を視察に同行させることを説明するためだった。
「工部大輔様へのお礼の言上のため参りました」
馨は笑いながら言った。
「聞多さん、そのような物言い似合わないですよ」
「そうかの。これからは一商人になるんじゃ。偉そうにしても得はないじゃろ」
「鉱山もですか」
「あぁ鉱山の方は気が進まんの

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#108

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#108

20 辞職とビジネスと政変と(6)

 そして、木戸も帰国をして、長州が排除された政権に不快感を隠せなくなっていた。渋沢や陸奥が馨の大蔵省のやってきたこと、問題点を話しに訪問していた。肝心の馨はなかなか訪ねては来なかった。
 木戸はとうとう馨の家に押しかけて行った。
「聞多があまりにも、顔を出してくれんので、来てしまったよ」
木戸は笑みを浮かべ、馨の前に座った。
「どうですか、体の調子は」
「まぁ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#110

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#110

20 辞職とビジネスと政変と(8)

 だが、閣議は思ったような進展をしなかった。西郷隆盛の朝鮮使節派遣が決定されたのだ。閣議決定を三条実美が天皇に上奏するだけになった。
 すると決定を受けて、岩倉、大久保、木戸の三人が辞表を出す。三条実美は派遣反対、賛成の板挟みに悩み倒れてしまった。太政大臣の職責を三条実美はできなくなり、太政大臣代理に岩倉具視が就いた。
 次の手を打ったのは、大久保だった。宮内

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