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フェリーとかぼちゃと抱擁と。

検索 『かぼちゃ 流された』

2年前の秋、私はそのかぼちゃの前にいた。

だから、数ヶ月前の台風でそのかぼちゃが壊れてしまったというニュースは人ごとには思えなかった。

あのかぼちゃはどうなっただろうか。検索してみたけど、新しい情報は見当たらなかった。

これはかぼちゃに会いに行った、不思議な島での記憶。

私は心配性だ。基本早めに行動する。だから、乗る予定だったフェリーが出港しようとしているのに、友人ともども待合の硬い椅子に座ってぼーっとしていたのは、飛行機の後遺症の耳詰まりと、知らない海の潮風にあてられたせいだ。

汽笛に慌てて、口をあけたままのリュックを抱えて桟橋をダッシュし、船に飛び乗った。ダッシュも相まって心臓が痛いくらいドキドキした。まさに冒険がはじまるという高揚感。

フェリーに揺られ数十分。赤いかぼちゃに迎えられて上陸したのは、とにかく不思議な島だった。

数年に一度のアートフェスティバルで、島は外国人で溢れていた。

至る所にある巨大なオブジェ。夜になるとビカビカと光るものもあった。

外観からはそこがなんなのかわからないくらい派手な色彩の銭湯。

港のたこ焼き屋さんが経営している民宿(ふつうの一軒家)と、放牧民が使うテントのような建物(ゲル)に泊まった。

日本中を旅しているというオーストラリア人のおじさんに呼び止められ、旅の話を聞き、仲良くなった印にとカンガルーのキーホルダーをもらった。

何日目かの夜、ド派手な銭湯帰りに飲みに行こうとなった。お兄さんが1人でやっているこじんまりとしたバルに入った。

ナチョス的なやつをつまみにクラフトビールをのんだ。私たちの他には仕事で島に来ていた教授がいた。友達は教授と何やら難しい話をしていた。お兄さんはおつまみを作ったり、教授達の会話に混ざったりしていた。私はそれをぼーっと見ながらお酒をのんだ。お兄さんも教授にすすめられていつのまにやらお酒をのんでいた。

ほどよく酔いが回ったとき。気づくと私は、これまたほどよく酔いが回ったお兄さんとスイーツの話をしていた。私は無類のアイス好き。アイスの話をしていると、お兄さんが言った。

「あー、バニラアイス食べたい。買ってきて。笑」

夜もだいぶ深まった時間。今の時間、島でバニラアイスを買えるところは、バルから歩いて数分のコンビニしかないという。しかも、そのコンビニはあと少しで閉まってしまうとのこと。

魔がさしたんだと思う。

お会計をしてコンビニまでダッシュして、バニラバーを見つけて自分の分と2つ買った。

バルに戻って、自分の分のバニラバーを取り出して、もう一つバニラバーが入ったビニール袋をお兄さんに突き出した。
「買ってきたよ」

たぶん、半分冗談のつもりで言っていたお兄さんは、びっくりしていた。お酒が回って顔は赤かった。

「ありがとーう」
気づくとお兄さんのパーカーが目の前にあった。なんの混じり気もない、ノリと勢いのhugだった。

バルの入り口では、南米系の外人さんがスマホで音楽を鳴らしながら陽気に踊っていた。





ダンブルドア先生が杖で自分の頭から記憶を抜いて溜めておくように書きましたので置いておきます。

最後までお付き合いくださったあなた。
ありがとうございます。

春瀬





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