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どうしても金魚が描きたかった今日のはなし。

■遡って日曜日

私は妹と数人の友達と白いバンに乗り、海の街のスーパーに来ていた。のんきにお惣菜パンを選んでいたところで、大きな揺れに襲われた。地震だった。慌てて駐車場に出た私の頭上で背の高い看板が大きく左右に揺れていた。揺れがおさまると私は妹の手を引いて、一目散に駆け出した。一刻も早く、山の上にある家に帰らなきゃ。津波が来るからと。

***

悪夢にうなされて、ハッと目が覚める主人公。あれはドラマの中だけの話だと、んな大袈裟なと思っていた。本当にハッと目が覚めるんだな。首の後ろにびっしょり汗をかいて、妙にリアルな夢から覚めた日曜日。なんとも寝覚めの悪い朝だった。

天気だけは良かったから、布団を干して。あとは日がな一日ごろごろしていた。本棚の本を引っ張り出しては床に寝っ転がりながら数ページ眺めては、次の本を手にとった。

最近何かとご縁のある『魔女と金魚』を開いた。

はだか木でできた扉を、水色の絵の具で塗り上げ、空っぽの金魚鉢と、ゆうゆうと泳ぐ金魚をあちこちに描き、真ん中に「魔女の占い」と書かれた小さな看板を釘で打ったのは確かに繭子であるが、…(以下略)        『魔女と金魚』p.23

繭子の事務所の扉の描写が、読んだ当初から好きだ。単行本の帯に描かれた金魚と繭子の描いた金魚が私の中ではリンクしている。

「明日は、金魚を描こう。」

するっとそう思った。そう思ったらうずうずした。このうずうずは久しぶりに感じるうずうずだった。

■明けて今日、月曜日。

最近は絵を描く気が起きなくて、ノームやヤモリのフェルトマスコットを作ったり、おとぎ話のぬりえをしていることが多かった。

2021年6月30日が絵を描いた最後の日だった。2020年7月から週1以上のペースで絵を描き続けていたが、私はまだ、描くモチーフが定まっていない。和装女性の後ろ姿を描き続けていた2020年夏。アフロの男の子のペン画にはまった2020年の終わり。リャマばっかり描いていたかと思えば、GW中は鹿ばっかり描いていた。先輩からオーダーを受けて描いたハワイの絵に触発されて、サーフボードを乗せたベスパも描いた。

四角いスケッチブック。透明水彩の朱色、山吹色、黄色、水色。完成した金魚は、ぽてっとしていた。繭子が描いた金魚みたいに、ゆうゆうとは泳げないかもしれないけど。のんきにそして涼やかに、水の中を漂うような水彩の金魚を、私は愛おしく思う。明日は何を描こうかな。しばらくは金魚かもしれない。


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毎日暑いですね。

最後まで読んでくれたあなた。

ありがとうございました。

春瀬 蒼






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