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フィードバックを育成プロセスに組み込む

2021年度上期について

だいぶ更新が滞ってしまい、申し訳ありませんでした。
東京オリンピックも終わり、2021年度も8月の半ばを過ぎ、まもなく上期が終わろうとしている時分ですが、皆様の法人・施設、事業所の経営状況はいかがでしょうか。
緊急事態宣言が発出されても、人出を抑制することにはつながらず、新型コロナウイルスの感染拡大が止まるところを知らない状況です。
高齢施設については、利用者、職員のワクチン接種も進んでいるようですが、障害、児童(保育園)ではなかなかワクチン接種が進まず、クラスターや参集研修などの是非の声が現場から挙がっていると聞きます。

私は職業柄、同世代の方達に比べると早い時期にワクチン接種ができました。特に副作用もなく、相変わらず、日々業務に追われる毎日を過ごしています(モデルナを接種した方は結構副作用があったという話を聞きますね)。

今年度は介護報酬改定もあり、高齢福祉業界については、次期介護報酬改定までの3年間の猶予期間の中で、あれやこれやと対応を迫られる状況といえます。

特に、LIFEへの情報提供・フィードバックによるサービスの質向上についての取り組みについては、4月の請求実績が全国で140件程度という状況ですから、鳴り物入りではじまった割りに、拍子抜けな感じです(4月から対応できた施設・事業所が少なかったということも言えるでしょう)。

特養調査を行っていても、LIFEへの登録は済んではいるが情報提供までには至っていないといった施設や介護ソフトとLIFEがまだ連動していないといった施設まで状況は結構バラついている印象を受けました。
わざわざ「科学的介護推進体制加算」という新しい加算まで創設して、データに基づく科学的介護へ大きく舵取りを行ったわけですから、国もそう簡単には方針転換はしないでしょう。

サービスの質向上に向けて取り組む必要があること?って

さて、今日は人材育成についての話題を取り上げようと思うのですが、先日受けた研修の中で、『提供しているサービスの質向上に向けて、取り組み必要があること』というテーマでグループディスカッションを行うことがありました。
皆さんの現場では、このような問いかけがあった際、どのような回答が上がるでしょうか?

「マニュアルの見直しを通して業務の標準化を図る」
「OJTで介護技術などを指導する」
「委員会やプロジェクトなどの専門的な活動を通して、実施する」

といった回答が上がってくるのではないでしょうか。
以前、福祉サービス第三者評価の「業務の標準化」に関わる記事でも触れたと思います。

その時の私の回答は、「上司からの良いことも、悪いことも含めた"フィードバック"が参考になった」といった内容を発言しました。
「フィードバック」で検索すると色々と表示されますが、

相手の行動に対して改善点や評価を伝え、軌道修正を促すこと。

という意味合いで用いることが多く、今日の記事でも、軌道修正=行動変容を促すことという意味合いで「フィードバック」の言葉を使っていきたいと思います。

現場の経営層や中堅層に部下指導について意見交換すると、

①「強く指導すると辞めてしまうから、なかなか指導(注意)できない」
②「何を、どう、伝えていいか分からない」
③「個別面談などで何を話していいか分からない」

という意見を聞くことがあります。

①「強く指導すると辞めてしまうから、なかなか指導(注意)できない」についていえば、職員の離職防止という観点では正解かもしれません。
しかし、組織として求めるサービス提供や組織文化・風土を醸成していく上で、風紀を見出すような職員に対して、退職してしまうから必要な指導や注意するのを躊躇ってしまう(言い方を変えらば怠ってしまう)、というのは本末転倒だと思います。
極端な言い方をすれば、そんな人材であれば、辞めてもらっても構わないと考えてしまいます(そうはいうものの、職員が欠員状態に陥ってしまうのであれば、強い口調で言えない状況もわからないでもないですが…)。
しかし、本当は指導や注意が必要な状況に目を瞑り、盲目的に容認している状況が続いた方が、良い人材が辞めてしまうという悪循環を生んでいる実態もあります(正直者がバカをみるような組織を作ってはいけないのです)。

②「何を、どう、伝えていいか分からない」のケースもよくあるのですが、経営層や中堅層が部下指導に対する制度の理解や情報が不十分で、結果的に人材育成の仕組みそのものが機能していない状況が推察されます。
人事諸制度の詳細については、過去記事を貼っておきますが、組織が定めた期待人材像に対して、そのギャップを埋めるための指導・育成をしていく必要があります。

そもそも、「何を、どう、伝えていいか分からない」という発言をする人材は、組織における役割を全うしていないともいえるので、意識を変えてもらい、自助努力で必要な知識やスキルを習得してもらう必要があるでしょう。

そして、③「個別面談などで何を話していいか分からない」は論外です。
経営層、中堅層として部下についての興味が全くない状況で、おそらく、部下からも上司についての興味もなければ、組織に対する帰属意識もなく、離職者も多いような組織の状態であることが、容易に想像できてしまいます。

フィードバックの3つのお作法

「フィードバック」を「相手の行動に対して改善点や評価を伝え、軌道修正を促すことを言います 」という意味で用いるのであれば、上記の①②③のようなことがあるので、十分に「フィードバック」している施設・事業所はそれほど多くないのではないかと思います。

福祉サービス第三者評価でも、訪問調査(経営層に対するヒアリング・資料確認)の後、評価結果報告書案を作成し、その内容を「フィードバック」という形で内容の確認と訪問調査時の捉え違いがないかなどを確認します。
もちろん第三者評価なので、良い点(強み)もあれば、改善点(弱み)も客観的にお伝えする必要があります。

「フィードバック」が機能するためには、①良い点も改善点もきちんとお互いが納得できるよう客観的に言語化すること、が重要だと思います。
経営層や中堅層であるあなたの感情論や価値観を一方的に押し付けるような指導・育成は今回取り上げる「フィードバック」ではありません。
これでは昭和の居酒屋で上司が部下に武勇伝を語りながら説教しているのと大して変わりません(ただの"ダメ出し"で、具体的な改善策などの指導がない)。
これでは部下の指導・育成はうまくいきませんし、下手するとあなた自身の評価を落とすことになるかもしれません。
ここでいう客観的というのは、人事考課制度でも良いですし、一般的なビジネスマンとしての立ち居振る舞いといった内容でも良いでしょう。
この客観的な指標に対して、取り組めていれば良い点ですし、不足していれば改善点になるわけで、その改善点をどのように取り組んでいけばその乖離を埋められるかまできちんと言語化して伝えなければ、部下の行動変容を起こすことができません。

2つ目は、②相手が腹落ちするまで「フィードバック」のスパークリングを行うこと、です。
これは「フィードバック」という取り組み自体が一方通行で説教にならないよう、相手にも発言する機会や納得させて、軌道修正を促せるようにすることが重要となります(聞だけで行動変容につながらなければ、「フィードバック」ではなく、ただの説教です)。

その際、「フィードバック」する経営層や中堅層の皆さんの方が発言量が多くなりがちなので、ここ要注意です。
「フィードバック」という名の指導・育成ですが、行動変容を伴う軌道修正を促すことが目的ですので、伝えたことが腹落ちしているかどうかを徹底的に話し合いのスパークリングを重ねて、齟齬のないように進めていくことが求められるます(面談会場を出て、行動変容が見られなければ、齟齬が十分埋められていないのです)。
特に中途半端に「フィードバック」するとかえって消化不良となり、経営層や中堅層に対する不平・不満につながり、組織に対する帰属意識は低下します。そういう意味では、「フィードバック」の時間は最低でも30分程度欲しいところですね。

3つ目は、③良い点と改善点をきちんと整理して伝える、ことです。
一種のバイアス(認知の歪み)であるハロー効果によって人事考課がきちんと行われないように、良い部分と改善する必要がある部分が区分けされず、例えば、「期日に提出物を提出しないから、おそらく遅刻もするだろう」といった推察で人を評価してしまうことになりかねません。
そうすると、「フィードバック」が改善点に偏りがちになるのです(人は悪い部分の方に目が生きがちなバイアスを持っています)。
それでは、職員は「フィードバック」にアレルギーを持ってしまい、指導・育成ではなく、ただの説教になってしまうのです。

福祉サービス第三者評価の報告では、「○○はできていますが、△△は十分に機能していない状況があります」「○○はありますが、△△の要素を追加することでより効果的に情報共有ができると推察されます」といったような表現を用いることがあります。
良い部分と改善する必要がある部分を整理することで、○○は強みとなり、△△は次年度の事業計画書の重点目標になるといったことができます。

①良い点も改善点もきちんとお互いが納得できるよう客観的に言語化する
②相手が腹落ちするまで「フィードバック」のスパークリングを行う
②良い点と改善点をきちんと整理して伝える

意外に上記の3つのことは人事考課の個別面談などでもヌケ・モレしがちなので、今一度確認してみてください。

フィードバックが機能する組織文化・風土を醸成させる

前項では、フィードバックのお作法について3点取り上げてきましたが、この章では、フォードバックを最大限機能させるために必要な組織文化を醸成させる必要性について取り上げていきます。

そもそも若い組織体や職員の成長意欲が乏しい組織では、いきなり「フィードバック」が100%機能するかといえば、答えは「NO」です。
そのような組織では、経営層や中堅層に対する依存体質が抜けず、何かあれば「辞めます」のカードをすぐに切ればいいというような思考の職員が多くては、『①「強く指導すると辞めてしまうから、なかなか指導(注意)できない」』という意見が出てもおかしくありません。

そのため採用面接の際に、「組織として、ことあるごとに「フォードバック」を通して、人材育成に取り組んでいるので、良いことも改善して欲しいこともきちんと伝える職場ですが、それでも働きたい意思はありますか?」ということはきちんと伝えておく必要があります。
欠員補充でどんな人材でもウェルカムという状況も否めませんが、組織文化や風土に合わない人材を採用し、後々こんなはずじゃなかったとなるのは、お互いにとってよくありません。
施設・事業所としての人材育成の方針や職員に期待することなどを採用面接の際に伝え、なおかつケース面談を取り入れ、法人職員として望ましい対応ができるかどうかを試験的に確認する時間を設定するといった法人も徐々にデスが増えてきています(コンサル業界では、ケース面談は当たり前なんですかね?)。

また、既存の職員においても、「フィードバック」についての共通理解を促すような働きかけは継続して必要ですし、経営層や中堅層は「フィードバック」の3つのお作法の実践は意識的に行っていただきたいと思います。
特に部下にも聞くという姿勢を持ってもらう必要がありますが、何より経営層や中堅層はお作法の『②相手が腹落ちするまで「フィードバック」のスパークリングを行う』で記載した、喋りすぎないということです。
経営層や中堅層こそ、聞くに呈していただき、部下が腹落ちできるよう「どうすれば△△を改善することができる?」といったコーチングの手法を用いながら行動変容を促すことができる具体策を「フィードバック」を通して伝えていただき、実践していただきたいと思います。

管理人

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