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一文物語集 ポケットに入る宇宙の万華鏡 上 その8

本作は、手製本「ポケットに入る宇宙の万華鏡 中」でも読むことができます。

1

化粧を直しに立った彼女は、通路で、魅惑の綺麗な羽を広げたクジャクとすれ違い、席に残してきた男のことなど忘れて、追いかけて行ってしまった。

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2

猛スピードで滑り降りてくる彼の乗ったスケボーは燃えていて、たぶん、降りるに降りられないまま、煙を引いて坂を下り続けている。

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3

新しい冒険キットが発売され、届いた小さな小さな内視鏡ロボットを飲み込み、ロボットを制御し、その映す映像を見ながら、自分の体内を冒険しているが、どうも遭難している。

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4

記憶を頼りに、閉ざされた昔の部屋に入り、幾重にも層になった埃を払うと、そこにあったものは全て朽ちていて、舞い上がった埃とともに、あったはずの記憶も消えていく。

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5

せっせと海水が運ばれていく海近くの銭湯が、臨時休業している理由は、浜で怪我していた人魚を介抱しているからだった。


6

動く石像が、癇癪を起こして壁を殴ると、自分の拳が砕けてしまい、冷静さを失ったことに後悔し、それからずっと石像として静かに佇んでいる。

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7

痛みを感じなくなった、という彼のポケットの中で見つかった真新しい電池に交換した機械は動かず、画面に、イタイ、とエラーメッセージが出ていた。

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8

昨日、一昨日と、二日連続誕生日の彼のパーティーに参加して、昨日は少し飽き気味だった。

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9

夜の滑り台に登ると、星に手が届き、滑り降りるとそのまま地中世界に迷い込み、地上への階段を上って、夜空を目指す。

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10

彼の家には、ポストがたくさん設置されていて、しかし、多くの届け物がある訳ではなく、彼はどれに入っているのか、探し当てるのを楽しみにしている。

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11

無断欠勤した勢いで、こんなところまで来てしまい、 今どこにいるのか、と上司からの連絡に、月と答えた。

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12

全人類の心を一つにつなぐため、ついに手元に巡ってきた絹豆腐を、次の人へ崩さずに手渡さなければならない。

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13

忘れられ、ずっとそのままになっている無数のてるてる坊主のせいで、それを凌ぐほどの長雨と突然の豪雨があったり、時たま抜群に効き目が無駄に出だして、暑い日が続いている。

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14

砂漠は、つらくて、がまんしていて、ゆっくりと涙をためている。


15

その螺旋職人か作ったバネの入った靴や階段を心からしっかり使うと、人生を昇華させてくれるが、早まると、ときに渦を巻いて沈み込ませることもある。

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16

カタツムリは、もっとスピーディーに動けるよう、ランニングマシンのスーパースローモードでトレーニングをスタートした。

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17

時たまやってくる夜が明けない日、高層ビルの高層階一室だけ明かりが灯っていて、地上から石を投げてそこの窓を割れば、夜が明ける。

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18

電球が割れたその一瞬ののち、その意志を継いだ禿げ頭が、今日もどこかで光り出して、夜世を照らしている。

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19

彼女は、鍵を失くした場合に備え、いつも斧を持ち歩いて、合鍵だと言い張っている。

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真夏の夜のとりわけ涼しい日、窓を半分開けて寝ていると、外を急いで走る誰かの足音が遠ざかって行き、やせ細った夏の骸骨が逃げて行くのを夢に見た。

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21

日ごとに謎かけと探偵役を交互に務めるミステリー好き夫婦は、朝起きると朝食の味噌汁を作っていた妻が、頭から血を流して死んだふりをしており、鍋に入れられている崩れた豆腐の角で殴られた、という夫の推理が正解し、朝食となった。

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22

お賽銭箱に小銭を投げ入れても、跳ね返されてしまい、どうも小銭では受け付けてくれない。

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23

断るのが億劫になってしまったその美女は、町で声をかけられたら、共に行動するオウムに喋らせて誘いを断るが、ショーウィンドウに映るオウムの姿にも、断りを入れてしまう。

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24

数字に追いかけられているのだが、9が一番大きくて勢いがあるかと思ったら、0がゴロゴロと襲いかかってくる。

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25

夢遊病の彼は、夜間、飛行して、朝、目が覚めると、枕元に星の型が置いてあり、その型から作られた星を、いつか手に入れたいと夢に見ている。

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26

夕方、子供たちが遊んでいる寺の池に、水上歩行を会得したという忍者が現れ、蓮の葉の上をケンケンパで、渡ると言って飛び出し、最初のケで、沈んだ。

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27

彼は、社長の打ったゴルフボールを、少しでもカップに近づけようと、地面に這いつくばって、転がりを止めないよう必死に息を吹きかけている。

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28

知識を留めていた本のダムが決壊してしまった彼は、ダムを作るのをやめて、雲の上に本を運び、ハシゴをかけて、いつでも取りに行けるようにしたが、時々、雨のように文字が降りそそいでくる。

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29

海から遠く離れた町で店番中の彼女は、暇な世界に、口をつぐんだ頭の中で、海水浴でヒリヒリと日焼けした背中を思い浮かべて、悶えている。

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30

昔はどんな鍵でも開けてきたという鍵屋の老婆が、内に引きこもった少女の閉ざされた心を開けると言ってみせたが、その手垢まみれの鍵と、経験で得た手技だけは、今は開かない。

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31

彼は、導かれるまま進んでいたら、行き止まりの路地に当たり、引き返そうと振り返ると、女性が現れ、二人で出口のない人生をともに歩くことになった。

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