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一文物語 2017年集 その6

本作は、手製本「一文物語365 天」でも読むことができます。

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雨の日、ボウリングで一球目を投げて二本サイドに残してしまい、どう倒そうか考えているところに、球が戻ってきたが、ぐっしょり濡れて出てきた。

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晴れの日、ボウリングの球を投げて、残った一本を倒せず、勢いよく奥へ吸い込まれていくと、何かにぶつかった鈍い衝撃音とうめき声を聞いて、気のせいかと思っていたところに、球が戻ってきたが、血にまみれていた。

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暑い日、ボウリング場内も暑く、陽炎すら見えるレーンに球をひと投げするだけで、汗が滴り落ち、ピンがいくつ倒れたかよりも早くこの場を去りたいと思っていたところに、球が戻ってくると思ったが、大きなたこ焼きが一つ湯気とともにゴロリと出てきた。

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すでにたたまれた八百屋という食事処に残されたのれんが風もないのに揺れていて、八百万の神が出入りしているらしく、ときどき大根が表に置いてある。

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蝋人形の世界では、男女の危ない火遊びも、怒号飛び交う醜い言い争いの節々に散る火花も身を滅ぼすのでほぼないが、世を明るくするために火を灯して、周囲もそれに涙する。

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愛情をもって首を締められ、雨降る軒先に吊るされるけれど、願いを天に届ければみんなが喜ぶので、ひどい扱いだと文句も言いたいが、彼は笑顔で雲に穴を空ける。

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一日楽しく遊んだ二人は、夕日に照らされた寄り添う自分たちの影に、一人はウサギの耳が頭にあり、もう一人は鬼の角が見え、それから二人は距離をとるようになった。

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彼女は、永遠に止まらないスクロールする道の上をただ歩かされていて、よく流れてくる買うボタンをどうしても踏むのがやめられない。

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西の空き巣と言われた男と東の女空き巣が、東西境目の家の中で鉢合わせて恋に落ち、一つの居をかまえ、二人が仕事に出ている間に、別の空き巣に入られた。

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静かな室内であるが、カタカタカタカタという音だけが騒がしく、その場に人がいるのに、会話はキーボードを通してでしかされていないがみんな、笑顔の宇宙人が混ざっていることを知らない。

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鉄骨で組み上げられた荘厳な寺の住職ロボットは、動かなくなったロボットを供養するため、お経を唱えあげると、解体プログラムが実行され、みるみるうちにバラバラに細かく分類されると、これは破壊と再生だと参列するロボットに説法している。

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孤島にいるマスク越しでもわかる怖い顔だが腕のいいその歯医者は、虫歯と一緒に嫌な記憶も抜いてくれてスッキリすると評判で、人生をやり直したいと、たくさんの人がわざと歯を悪くして海を渡ってくる。

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収穫しようとすると、畑から大根が走って逃げて去った。

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兄を探している幼い少女は、迷いこんで抜け出せなくなった広大な、麦畑でつかまえて、と泣き叫んでいる。

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隣の席の同僚は、睡眠不足らしく青白い顔でいつもあくびをしていて、夜、なにをしているのか問うたら、心の美容のために月光浴をしていると言った。

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老若男女が行き交う町で、隣で待ち合わせをしている奥ゆかしい老婦が、綿あめを目印としてかかげ持っていたが、先に自分の待ち人がやって来てしまったため、老婦がいったい誰を待っていたのか気になり、夜も眠れない。

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むしゃくしゃして、抜くなと書かれた杭を抜いたら、小さな氷玉が吹き出てはやまず、辺りで屋根を奏で打つ音と悲鳴が響き渡る。

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突如、町中の地面を割って現れた地底潜艦から一人地底人が出てきて、ハンバーガー店で大量に注文をしている間に、地底潜艦はいなくなって見捨てられたことがわかりパニックになっていると、元地底人が現れ、それを食いながら夜の星空を一緒に見ようか、と言って、両手荷物いっぱいにして山へと向かった。

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後ろから、ワッ、と驚かされた彼の目玉は、ポーンと飛び出して坂道を転がっていく。

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ピンク色のため息を何度も吐いている少女は、先日から、恋わずらい虫に心をくすぐられている。

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タコがスライディングを決めようとしたが、自分の足の吸盤に足を取られて、こけもがいてびっくりした拍子にスミを吹き、恥ずかしさのあまり赤く茹で上がっている。

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がきんちょたちが、地面や人様んちの壁にへんてこな落書きをしたが、翌日になるとまっさらと消えていて、その落書きは世界の各地でへんてこに暴れまわって、ニュースになっている。

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カバンの底が靴底になっていて、気楽にどこにでも荷物を置いておくことができるが、つい目を離すと勝手に歩き回っていなくり、靴跡をたどればいいのだが、挙げ句の果ては中の荷物が踏み潰されていることがある。

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メモリーが飛んでも形として残しておきたい、とロボットが入れ墨を入れにやってきた。

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朝、目が覚めると、彼女の髪の毛はすごく伸びていて、辿って行くと大都会の交差点の真ん中で見知らぬ人の髪と結ばれていた。

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雨の落ちるビルの上から少年は、暗雲を掘るスプーンを携えて大雲原に飛び込み、モクモクと雲をかき分け、ようやく差し込んだ空の光はまるで少年の笑顔のようだった。

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彼を殺して住みついた女のいる家に、四年目の旅を終えたその彼が戻ると、新しく蘇った彼の眩しさに驚愕して女は砂になっていなくなった。

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丹念に育てた一文花畑の花が一面満開となり、色とりどりの花から垂れとれた蜜がついに缶をいっぱいに満たした。

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カラスが騒ぎたつ場所には死体があるというので、彼はくちばしで突っつかれながら林の中を進んでみたが何もなく、気づいた時にはカラスに取り囲まれて葉に覆われた木々を見上げるほかなかった。

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何もなかった真っ白な部屋を、長い年月をかけて文字で書き埋めると、扉というひとつの字が開き、その先にはまだ輝きを放てぬ文字の星々が広がっていた。

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