現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その38)

 院は女三宮を連れて三条宮《さんじょうのみや》に移り、女三宮の世話に専念するつもりでいた。
「二条宮《にじょうのみや》(中宮の里)には既に権中納言と女四宮がいる。もしわたしがそこに乗り込んだら、二人は他の場所に移らざるを得なくなるため、かえって気詰まりだ」
 一方の関白は、以前から考えていたように尚侍《ないしのかみ》と姫君を、それぞれ帝と東宮に同時に輿《こし》入れさせる意向を固め、入内《じゅだい》の準備を急いだ。しかも、今月中に実行に移すことを公にしたため、人々は大急ぎで作業に取り掛かった。
 こうした中、院は心静かに仏道修行に専念することができるようになり、心の落ち着きを取り戻しつつあった。

(続く)

 帝の退位を機に、様々なことが動き始めます。

 今回の一番の注目点は姫君の処遇についてで、関白は一ヶ月以内に新東宮(三宮)と結婚させる意向を固め、周囲に公言しました。もう一人の娘である尚侍は既に新帝(一宮)への輿入れが内定していますので、政治的に皇后・中宮どちらの御子に転んでも損をしない構図となります。

 ただ、少しうがった目で見ると、関白一家以外に臣下がいないため、消去法でこうせざるを得ません。臣下の登場人物がほとんど描かれないのは、作品の成立時期が院政期(平安末~鎌倉初)に当たる擬古物語全体の特徴と言えます。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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