現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その20)

 女四宮との結婚に関する中宮からの圧力が少し弱まったため、権中納言は気になっていた内裏《だいり》に足を運んだ。帝は久し振《ぶ》りに参内《さんだい》した権中納言に喜ぶ一方、できることなら女三宮を彼に降嫁《こうか》させて安心したかったと改めて悔やんだ。
 ひどくやつれた権中納言は、女三宮に仕える中納言の君のもとに忍び通い、どうにかして手引きをしてほしいと責め立てたものの、何の甲斐《かい》もなかった。

(続く)


 権中納言と女四宮の結婚を推し進めているのは中宮ですが、一方の帝は、権中納言と女三宮の結婚を望んでいたことが改めて語られています。帝と権中納言は二人とも中宮に逆らえないとはいえ、権中納言が覚悟を決めて直接訴えれば、状況を変えることもできるかもしれません。――しかし、叔母の怒りを買うのが恐ろしい権中納言は行動に移せません。

 客観的な観点で言えば、「後ろ盾がなく、子もいない東宮」よりも、「摂関家の正式なバックアップがある上に、次期東宮と目されている三宮(兵部卿宮)と中宮」に付いた方が堅実なため、権中納言に「社会的な立場を捨ててまで恋を優先しろ」というのは酷かもしれません。ですが、欲望に任せて女三宮を強姦してしまったのは、どうにも取り返しのできない失敗だったと言えます。

 しかも、女三宮に愛想を尽かされ、面会どころか文を渡すことすらままならない状況ですので、完全に八方塞がりです。
(文中の「中納言の君」という女房は、かつての強姦の際に手引きをしたことがばれていて、女三宮に警戒されています)

 それでは次回にまたお会いしましょう。



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