現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その50)

「月日が経《た》つにつれて、このまま生き永らえることはできないと思う気持ちが強くなり、現世は仮初《かりそ》めだと強く感じるようになりました。しかしながら、もしもこの世を捨てることになったら、こうしてあなたと対面する機会がなくなってしまうのが不安で、とても悲しく思っているのですが、きっとあなたは同じように思ってくださらないのでしょう」
 姫君は「以前からこのような言葉を繰り返すのはなぜだろう」と不審に思ったが、余計なことを口にして相手の不興を買うのも気が引けるので、そっと「どうしてそのように思うのですか」とだけ答えた。

(続く)

 権中納言は姫君を口説き始めます。姫君の素性は明らかではないとはいえ、関白が引き取った上に東宮への輿入れも決まっているため、関白の子であるのは間違いありません。権中納言も兄妹の関係にあることは十分理解しているはずですが、溢れる気持ちが抑えきれないようです。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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