現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その18)

  夕暮れの花橘《はなたちばな》によそへてもいづれの空の雲と眺めむ
 (夕暮れの橘《たちばな》の花にことよせて母を思い出そうとしても、火葬の煙がどの雲になったのか分からないままなので、途方に暮れています)

 目を奪われるほどの筆跡・墨継《すみつ》ぎで、しかも、恋い焦がれている女三宮と非常に似ており、紙を手放すことができない。姫君はさらに困惑して扇で顔を隠したが、その仕草《しぐさ》は筆舌に尽くし難かった。文字が見分けられないだけでなく容姿まで瓜《うり》二つなため、権中納言はじっと見つめながら返す返す不可思議に思った。

(続く)


 権中納言は、姫君の外見や筆跡が女三宮と瓜二つなことを不思議に思いつつも、その理由までは考えが及びません。一方で読者は、姫君と女三宮が実の姉妹だと知っていますので、彼の行動が滑稽に見えますが、それだけ純粋・無垢だとも言えます。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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