現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その39)

 八月末、尚侍《ないしのかみ》は参内《さんだい》して藤壺《ふじつぼ》を自分の局《つぼね》としたが、帝から寵愛《ちょうあい》された上に、他に並ぶ后妃《こうひ》もいなかったことから、何の張り合いもなかった。当初、姫君の入内《じゅだい》も同時に行われる予定だったが、二人が互いに競い合うのは具合が悪いため、少し時間をおいた十一月に延期することになった。また、即位の直後で慌ただしい時期のため、今回の大嘗会《だいじょうえ》は見送って来年に持ち越すことになった。

(続く)

 関白の二人の娘のうち、尚侍(権中納言の妹)が先に入内しました。新帝には他にめぼしい女性がいなかったため、寵愛を一身に受けます。

 当初の計画では、同じタイミングで姫君も参内するはずでしたが、姫君の方が格段に美しく、一緒にいることで余計な問題が起きるリスクを考慮して、少し時期をずらすことになりました。――この辺りの経緯をさりげなく表現しつつ、「仕事はできるが女心に鈍感な関白」という人物像を描いた作者の感覚が、いかにも女性らしいと個人的に思います。

 また、この姫君の入内の遅延が、別の新たなトラブルを引き起こすきっかけになります。

 なお、今回の尚侍の入内を受けて、人物関係図が更新されました。少し見づらくなりましたが、今後、もっと複雑になります。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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