試験にはたぶん出ない古語クイズ(2022/06/21)

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答えは「③恋人がやって来る」でした。

「蜘蛛の振る舞ひ」と呼ばれる吉兆で、『日本書紀』に書かれたとある歌が元になっています。

【 原文 】
我が背子(せこ)が 来(く)べき夕(よひ)なり
ささがねの 蜘蛛(くも)の行ひ 今夕(こよひ)著(しる)しも

【 現代語訳 】
今宵はきっと愛する人がやって来るに違いありません。
蜘蛛(くも)が巣を作る動きが特に目立つ夕暮れですので。

(『日本書紀』、巻十三)

この歌は『古今和歌集』にも収録されており、若干の差異はありますがほぼ同じ内容です。

【 原文 】
衣通姫(そとほりひめ)の独りゐて帝を恋ひ奉りて、
 我が背子(せこ)が来(く)べき宵(よひ)なり
 ささがにの蜘蛛(くも)の振る舞ひかねてしるしも

(『古今和歌集』)

歌の詠み手は「衣通姫(そとおりひめ)」という女性で、「肌の艶が衣を通して光り輝く」という二つ名で呼ばれた伝説の美女になります。かぐや姫の前身と言えるかもしれません。

『日本書紀』では允恭(いんぎょう)天皇の皇后の妹、『古事記』では同皇后の娘と、それぞれ異なる設定になっていますが、蜘蛛の歌で知られるのは『日本書紀』の方です。

允恭天皇に何度も請われて妃(側室)になったものの、姉の皇后(正妻)に遠慮して都から離れた地で寂しく暮らす衣通姫が、天皇の訪問を心待ちにしながら詠んだのが先の歌になります。

この「蜘蛛の振る舞ひ」は、女性が恋人の訪れを待つ場面での定番描写で、『源氏物語』をはじめ、様々な古典作品に採用されています。
(「蜘蛛」の部分は、蜘蛛の異名である「細蟹(ささがに)」に置き換わることもあります)

【 原文 】
ささがにのふるまひしるき夕暮れに
ひるま過ぐせといふがあやなさ

【 現代語訳 】
夕暮れに蜘蛛が巣を張り始め、わたしが行くのは分かっていたはずなのに、蒜(ひる)の匂いがなくなる昼まで待てと言われるのは筋が通りません。

(『源氏物語』、帚木)

昔の蜘蛛は嫌がられるどころか、むしろ歓迎されていたようにも見えるのが少し面白いですよね。


ちなみに、『古事記』に収録されている衣通姫のエピソードは『日本書紀』よりも強烈で、恋愛の相手は同母兄(実の兄)の木梨之軽王(きなしのかるのみこ)になります。

禁断の愛が露見した木梨之軽王は皇太子の座から引きずり下ろされて伊予国に流され、最後は彼を追って来た衣通姫と共に命を絶ちました。

【 原文 】
君が行(ゆ)き 日長くなりぬ
山たづの 迎へを行かむ
待つには待たじ

【 現代語訳 】
あなたが伊予国に流されてから、随分と月日を重ねてしまいました。
今から迎えに行きます。
このままあなたを待ち続けるのは、とても耐えられません。

(『古事記』、允恭天皇)

これらの逸話から、衣通姫は「歌が上手い薄幸の美女」と見なされるようになりました。諸説ありますが、「三大美女」や「和歌三神」の一人として挙げられることもあります。


――最後に少しお詫びを。
クイズの他の選択肢ですが、辞書掲載レベルのジンクスではないというだけで、実在したものがあるかもしれません。特に「①晴れの日が続く」はあってもおかしくなく、出題がよくありませんでした。ごめんなさい。
(「古典作品で」と限定すべきでした)


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