現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その34)

 どういう意味だったのかと首をひねる関白は、「もしかして昨夜、姫君の身に何かあったのかもしれない」と思い当たり、慌てて対屋《たいのや》に向かったものの、特に異常は見つからなかった。
「それならば女三宮だというのか。しかし、こと男女関係に関してはしっかりと身を慎んでいるので問題は起きないはずだ」
 根拠もなくこのように安心してしまったのは何とも鈍いことだった。

(続く)

 故・皇后宮が夢で告げた「自分と同じ境遇で悩んでいる人を慰めて欲しい」という内容が気になる関白は、真っ先に同じ屋敷にいる姫君のもとに向かいますが、何も問題ありません。それならばと今度は女三宮に目を向けますが、勝手に「あの女三宮なら大丈夫だろう」と安心してしまい、せっかくの皇后宮の忠告が無駄になってしまいました。

 古典における夢見イベントには絶大な効果があり、通常ならばここで真実に気がつくはずですが、それすら回避してしまったところに、作者の悲喜劇に対する並々ならぬ思いを感じます。――今で言うラブコメのようなものですが、当事者たち(特に女三宮)にとっては悲劇でしかありません。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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