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ヤバい主人公とヤバい女『エスター ファースト・キル』

※ネタバレあり。

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あのエスターが帰って来た!!




…なんてポップに言えないレベルのヤバい殺人鬼、エスター。
その設定のインパクトから好評を呼び13年、前日譚となる『エスター ファースト・キル』が公開された。

観客はほぼ間違いなく前作を観ている筈なので、今作を観る時点ではエスターの正体とヤバさを知っていることがほぼ前提になる。むしろ、それを知らないとピンとこない要素もあり、ただのサイコ映画に留まってしまうので先ずは一作目を観て欲しいところ。


エスターの魅力は、見た目に不釣り合いな不気味さだ。これがホラー要素に拍車をかけている。もちろん、そういった障害を抱える人が不気味なわけではないが、それをとことん利用する悪辣さが異常である。
あと、シンプルに強い。少女と油断させておいてグサリ…みたいなことは彼女の常套手段だが、正体がバレてからも正面きって腕力を使ってくるから怖い。そして完全犯罪を遂行するわけではなく、感情的になり計画に若干の穴が空いたりするところも狡猾な殺人鬼としては独特な魅力だろう。


と、これらのヤバさは前作で履修済な訳で。今回、初めての一家殺人をするにあたって、彼女が無双することはもう予想がついている。
だから、多くの人がこう思うのだ。「エスターがガンガン家族を騙して殺人していく様を楽しむ映画なんだな」。正体や動機が分かっている以上、もうミステリーの要素はなく、ただサイコホラーとして観ればいいだけなのだ、と。


しかし、そうではなかった。
なんなら普通の顔して生活している家族の方がヤバいくらいだったのである。


母親のトリシア、兄のグンナーと秘密を共有したエスターだが、エスターはトリシアの支配下に入ることを当然好まない。ここから完全にヤバい女同士の戦いが始まっていく。今作はエスター無双なのではなく、ここがポイントだ。これがいっそ気持ちいいくらい互いを憎んで殴り合うので、そこらのサイコホラーとは違う面白さがある。

これにより、今作はただの殺人鬼エスターを観るためのストーリーではなくなった。そして彼女が前作『エスター』で行なってきたことのモチーフとなる場面やキーワードが出てくるため、ファースト・キルの名にふさわしい彼女の殺人鬼としての始まりの物語であった。


個人的に好きだったところ!
私は前作『エスター』をレンタルショップで借りたDVDで観たのだが、そこに没エンディング映像が入っていた。それは湖に沈められる最期を迎えずに、ばらばらに壊された一家の屋敷を取り囲む警察の前に、鼻歌を歌いながら化粧直しをしてお上品に挨拶して現れるというもの。正直、私はこれがかなり好きで、こっちを本エンドにして欲しいとすら思っていた。
今作ではまさしくそれをなぞったシーンが出てくる。次作のためにまだ捕まる訳にはいかないため、身なりを整えて燃え盛る家の中を何食わぬ顔で堂々と歩いているだけなのだが、この演出に例の没エンドを思い出してテンションが上がってしまった。これからの彼女の悪行を物語るかのような見事な振る舞いである。

それも含め、もうとっくに成人したイザベル・ファーマンが主演続投で圧倒的な演技力を見せてくれたのも良かった。子役の時点からただものじゃないことは確かであったが、少し面影は大人に見える部分がありつつ、エスターとしての雰囲気は全く失われていなかった。もう彼女の代名詞とも言える程のエスターは今後も伝説として語り継がれるのだろう。


割とサクサクと展開するので、正体が分からなかった前作ほどホラー演出は控えめな気がするし、そもそも「あ、これ殺るな」が分かる以上はジメジメした不気味さはあまり感じられない。エンドクレジットの蛍光塗料の演出や音楽は一級品。最後の彼女の微笑と涙を観た後にあの不気味なクレジットがくるギャップはお見事としか。

ただ、今回は相手もヤバい女だっただけに、トリシアやグンナーに罵られているとエスターもちょっと哀れに思えるシーンが出てくるのが前作との違いだ。刃物を向けて来る以上はこちらも応戦するしかないので、本当ならエスターに同情は不要な筈なのだが、むしろ今作の一家の存在がエスターの凶行に拍車をかけてしまったようにも思う。
精神病院に入る前のことが語られない以上は分からないが、方法や環境が変わればリーナと言う一人の女性して愛される未来もあったと信じたい(無理か?)。

あくまで前作を知っている人のための作品という気がするので、気になる人は前作からしっかり観て欲しい。

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