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韓国のSF小説を二冊読んで感じたこと

※ネタバレあり
韓国のSF小説を二冊読んだ。私は通常SF小説は手に取らないのだが、友人が面白いよと教えてくれた本のリストに入っていて、それがSFだと知らずに手に取った。二冊とも面白かったので感じたことを記しておきたい。

わたしたちが光の速さで進めないなら

短編集で、宇宙関連の話が多かった。他の星に行ったり、宇宙人と交流したりする様子が描かれている。

読んで感じたのは、人はみな、圧倒的に孤独であるということ。最初から最後まで、一人だ。
技術が発展して遠くまで行けるようになったとしても、人が抱える孤独感や、人が他人とつながりを求めることは変わらない。そう感じさせる。
そうであれば、技術発展は人の幸せにどう寄与するのだろう。
世の中が速く、便利になったとしても、大切な人と過ごす時間が大事であることは変わらないのだろう。
特に私の心に残った話は二つ。

「わたしたちが光の速さで進めないなら」

(あらすじ)遠くの惑星まで移動できるワープ航法が発明され、それに必要な技術開発に従事していた女性。夫と息子はスレンフォニアという星に移住し、彼女は地球での研究をやり終えてから追いかけるつもりだった。
ところが、宇宙のショートカット通路が発見されて、ワープ航法では行けなかった惑星にも簡単にアクセスできるようになった。ワープ航法より早くて、安全で、コストも安い。
そこで、ワープ航法での宇宙船の運航は次々と廃止された。スレンフォニアはワープ航法でしか行けず、ショートカット通路ではアクセスできない。
スレンフォニア行きの宇宙船は、研究の締めくくりとなる発表会の日が最後便となることが、発表会の前日にわかった。女性は発表会を終えてから宇宙船に乗ろうとしていたが、間に合わなかった。彼女は、年を取った今も、スレンフォニア行きの宇宙船が出るのを待ち続けている。

哀しい。
先に家族を移住させて後から自分が追いかける行為は、下手をしたら今生の別れになるかもしれない。毎日家族と顔を合わせて暮らしている私の今の生活は、奇跡かもしれないこと。
その時は妥当な判断だったとしても、情勢が変わったら結果が変わるかもしれない。世の中の何が自分に影響するか分からないこと。
技術の進歩に貢献したにもかかわらず、国家の予算の都合で切り捨てられる人がいること。
10年従事した研究の締めくくりの仕事をなげうって、家族と過ごすために宇宙船に乗れるか。読者の立場では、仕事よりも家族を優先するべきだと思える。でも、当事者だったら。移住の準備もできていないのに、明日の研究発表会を放り出して、宇宙船に乗る決断ができるだろうか。
そういったことを感じ、考えた。

「館内紛失」

亡くなった人の記憶が図書館に保存されて、アクセスできるようになった世界での話。
私は、人が死ぬと同時にその人の記憶がなくなるのが寂しいと思う人間なので、この世界線はちょっといいなと思って読んだ。記憶が保存され、バーチャルなその人と対峙できるようになる世界では、肉体的な死とは何だろうか。
人類の知を蓄積したた先には何があるのか。

脱線するが、人生における圧倒的な寂しさは「黄金の少年、エメラルドの少女」を読んだ時にも感じた。
人は一人で生まれて一人で死ぬ。そういうことをこの小説を読んだ時に感じたことをおぼえている。

千個の青

故障のため安楽死させられる競走馬と、廃棄直前のロボット騎手を救おうとする少女たちの物語。

登場人物が歩み寄り変化していく様は、読んでいて心が温かくなった。
その中でも、少女たちの母であるボギョンのエピソードに心を打たれた。
最愛の夫を亡くしたボギョンが日々を忙しく過ごすさまが描かれている。毎日たくさんのことを抱えてそれをこなしているけれど、夫を亡くした時に彼女の時間が止まっていた、というくだりに身をつまされた。私は幸いにして大切な人を亡くしたわけではないが、毎日慌ただしく過ごしている割に進んでいない感覚がある。そういう意味で、他人事ではないと感じた。

この本が伝えたいメッセージは
「私たちはみんな、ゆっくり走る練習が必要だ」
身近な人と心を通わせて、日々を味わいたい。この本を読んで、改めてそう思った。

余談だが、韓国の人の名前が覚えられない。カタカナで表記した時に濁音と拗音が多すぎるからかもしれない。名前だけでは性別も分からないので、登場人物が多いと混乱するし、イメージもわきにくい。
その点、中国語の小説では人名が漢字で、漢字から性別を類推できることもあるので、とっつきやすいと私は感じる。


今回使用した写真は、2012年6月にソウルを訪れた時に見つけたスタバの看板。STARBUCKS COFFEEをハングルで表記するのが面白いと思って撮ったのだけど、よくよく考えたら中国でも「星巴克咖啡」と表記されてるし、現地語で表記しない日本の方が特殊なのかも?と思ったり。
そして、早いものであれからもう11年もたつのかと写真を見てしみじみした。あの時一緒にスンドゥブを食べたユさん、元気かな。

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