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【労働判例】シフトは勝手に減らせません(東京地裁令和2年11月25日判決)

 今回はシルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日判決)を取り上げます。
 この事件は、シフトに基づき月平均15日・75時間前後勤務していた労働者が、その後、月1日・8時間へとシフトを大幅に削減されたため、シフト削減分の差額賃金を使用者に求めた事件です。
 裁判所は、賃金の一部の支払を認めました。

判決の構造

 本事件の労働者はもともとシフトで勤務していましたが、訴訟手続内では「週3日、1日8時間、週24時間」等の労働条件で勤務するとの合意が成立していると主張しました。
 これに対して裁判所は、そのような合意は成立していないとした上で、シフト制には労働者側にも出勤日時を決められる利点があるため、シフト制をもとに出勤日・出勤日数を定めることには問題はないとしました。
 他方で、裁判所は、シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するもので労働者の受ける不利益が大きいことから、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合にはシフトの決定権限の濫用であるとして使用者に賃金を請求できるとしました。
 その上で、裁判所は、本事例において、上記のような大幅なシフトの削減を行なう合理的な理由がないとして、使用者に対し、労働者が請求した賃金の一部の支払を認めました。

判決から学ぶべきポイント

 この事例では、「シフトの削減が合理的な理由に基づくか否か」という基準で使用者による賃金支払義務の有無を検討しています。
 この基準による場合、使用者側がシフトを減らす理由がきちんとあることを証明できれば、たとえ労働者側からの合意がない場合でも、シフトを削減した分の賃金を支払わないことが可能となります。実際、裁判所はそのように判断して賃金の一部にしか支払を命じていません。
 もっとも、今回の対象となった労働者はパートタイマーで所定労働時間がかなり少なかったという点が影響した気がします。もともとが家計補助的な就労であるため、賃金が下がったとしても生活への脅威が少ないという価値判断があったのではないかと思われるのです。
 また、今回の事例では「週3日、1日8時間、週24時間」での勤務の合意が認められていませんが、フルタイム労働者で家計の支柱となっている労働者の場合には、「週5日、1日8時間、週40時間」の枠によるシフト勤務の合意が認められるケースは多いのではないかと思われます。
 その場合、使用者は労働者に週40時間労働に対応する賃金を保障していることになるため、シフトの削減(それによる賃金減額)の可否は厳しく判断されるでしょう。

 いずれにしても、シフトの削減は労働者の生活に大きな負の影響を生みます。使用者としては、「固定費削減のためまずは人件費から・・・」と考えてシフトを減らしたくなります。しかし、今回の裁判例をきっかけにシフト削減から直ちに賃金減額が認められるわけではないということを理解いただければと思います。

 本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

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