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水の空の物語 第2章 第4話 

「あ、でもね、聞いてよー」

 ひろあは眉を寄せて、ベンチに両手をつく。

「あたしたちね、なんか、うまくいかないのー」「え? 貴人たかと先輩と?」

 風花は声をあげてしまった。

「だって、つき合い始めてまだ一週間くらいじゃない」
 香夜乃が言葉を続ける。

 貴人はひろあが入学式の日に出会って、すぐにつき合い出した三年生だ。

 転んで手のひらを擦りむいたひろあを、貴人が手当てしたのがきっかけだ。

「だって、貴人くん、あたしが怖がりだって知ったら、からかうようになったんだよー。隣に幽霊がいるとか、妖怪がいるとか」

「……そ、そうなの?」

「この前は、心霊スポットに連れて行かれるし」「心霊スポット?」

「映画館だよ」
「え?」

 風花はまた声をあげてしまう。

 香夜乃は苦笑して、石畳に視線を落とした。

「映画館で、魔物だの精霊だの怖いものが出てくる映画を観せられたの。あんまり怖かったから、あたし、貴人くんをゲンコで殴っちゃった」

 風花は絶句した。
 ゲンコよりも、精霊という言葉に引っかっかた。

 ひろあが怖がりなのは知っていたが、魔物と精霊を同じに考えているとは思わなかった。

 もし、ひろあが夏澄に会ったら、どうなるだろう。

 やっぱり、ゲンコツで殴るんだろうか。

 



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