ビズケット冊子の表紙3つ並べる

『ビズケット』(個人出版ビジネス書マーケット)に可能性を感じる理由

個人出版ビジネス書マーケット『ビズケット』を2019年9月28日(土)、浅草の台東館で初開催しました。

各自が仕事や生活で培ったノウハウやスキルを、
うすい冊子にして販売する「ビジネスマンの文化祭」です。

初回だけに、課題点は山積みだったのですが、
僕は今まで携わったイベントとは比較できないほど大きな可能性を感じています。

どんな可能性があるか、まとめてみます。

(その前提となるのが、「既存の出版流通」の問題点でもあるので、ぜひ、こちらの記事も合わせて読んでみてください。
出版界の行き詰まり感は、「既存の出版流通」の制度疲労だと思う )


スライド14

フォーマットの自由度が高い

・必要な情報が入っていれば、8ページでも価値がある。
むしろ、得られる情報に比して、いたずらにページ数が多いようでは、読み手に余計な労力を強いることになるから、いただけない。

・作り手にとっても、必要最小限の労力であるべき。

これが、ビズケットで頒布される冊子のスタンスです。

僕が作成してみた冊子は、本文はWord、表紙はパワポで作成し、自宅のコピー機で出力してホチキス止め→100均の製本シール貼り付け、で作りました。

行間を空ける、改行を頻繁に入れる、行頭を一文字落とさない、といった細かいことも既存の本と異なるところです。


編集者としてこれまで仕事で作ってきた本と比べ、
労力は圧倒的に少ない。おそらく1%以下。

ビジネス系情報における、CtoCの新しい流通形態が生まれる

同人誌即売会の醍醐味の一つは、「著者から直接買える」ことにあります。

「本を売るためのイベント」、「CtoC」といった要素を体現しているビズケットは、これまで同人誌即売会に足を運んで来なかったような人たちに向けた新しい流通形態を構築していくことになるかもしれません。

amazonで買えないものが手に入る

amazonに取り揃えられているコモディティ情報ではない、ごく限られたターゲットに向けて届けようとしている情報がそろうことになります。

2016年のブログ「サードウェーブ・パブリッシング」という希望 にも記しましたが、今後は、いかに「ここでしか、今しか」手に入らない、を作り出すかが肝になると思っています。

新しい書き手の発掘の場になる

昨今の「新刊本が売れない」という状況下で、ますます新人は本を出しづらくなっています。(ビジネス書に限らないのですが)

うすい冊子であれ、一冊にまとめあげ、それを売った、というフェーズを経ていることは、企画をジャッジするうえで良い評価基準になります。

これまで出版社がアプローチしようとはしてこなかった人たちの中から、著者が発掘されていく機会を生み出していく可能性があります。

書く人、読む人の層が一致

コミケをビジネスとして見たとき、秀逸だと感じるのは、頒布している人たちが熱心な買い手でもある、という点です。
その構図が成立する分野は、意外と限られています。

たとえば、「絵本の同人誌即売会」を例にしてみます。絵本を描きたい人は結構たくさんいます。が、絵本を描きたい人でも、意外と絵本を読んでない人が多いので、あまり積極的な売り買いが生まれない、という懸念があります。

ビジネス書の場合、書きたいと思っている人は、たいてい、自身もたくさん読んでいます。この点もビズケットの大きな可能性だと思っています。

 ■考察: 電子書籍やブログとの違い

ビズケットのことを人に話した際、「電子書籍やブログでいいんじゃないの」と言われることがよくありました。

ビズケットの意義を考える上でも重要な視点だと思うので、何が異なるのかをまとめていきたいと思います。
(異なる点も、すなわちビズケットの可能性だと思ってます)

・対面販売

電子書籍やブログには「著者の顔が見えにくい」傾向があります。

一方でビズケットは、O2O(Online to Offline)の場とも言えるかもしれません。
ツイッターやブログなどで集めたフォロワーを、年に数回、足を運んでもらい、直に接しながら販売する、という機会になることと思います。

・「紙で読みたい」ニーズに応えられる

・期間限定・頒布場所限定・部数限定

前述の通り、「今しか、ここでしか、限定部数」がビズケットには成立しています。

・比較的、売上が出しやすい →書き手のモチベーションが高まりやすい

電子書籍やnoteはまだ市場が小さいため、マネタイズしにくいのが現状です。

ビズケットは販売前提なので、一日で目に見える売上が出やすいのです。
収益になるかはまた別問題ですが、おそらく多くのビジネスマンにとっては、何千円かの利益が出るかどうかよりも、
「自分の書いたものに対し、対価を払ってくれる人がいる」という感覚を得られることのほうが重要ではないかと思います。

そうした思いは、良質なコンテンツを生み出していくエネルギーの源泉にもなります。

 ■考察: ビズケットの課題、そしてこれから

もちろん、可能性だけではありません。

はじめに書いたように、課題点は山積みでした。
特に感じた点を記していきます。

●「同人誌」という響きに対する、ビジネスマンの抵抗感は予想以上に強かった。
どう払拭していくか。(いかないか?)

●ユーチューバーのように、ビズケットからスター著者が生まれてくるか。
生まれてきたとき、どういうタイプの人か(ゴリゴリのビジネスマン? 自己啓発系? ゆる起業系?などなど)
によって、ビズケット自体の方向性が変わってくる。

今後、運営側が、どういう人をピックアップするかが大事かもしれない。

●作る作業自体も醍醐味であるコミケと違い、「プロに制作を任せられるなら任せたい」といった要望もありました。
このあたりのニーズは、この先、ビズケット自体の収益化のヒントかもしれません。

●「出版社からビジネス書を出すことで得られる名刺機能がない」「自費出版よりは少し格上なお墨付き感は欲しい」という声もありました。
コミケのように、出版社からスカウトされる場となるように、意識的に環境を整えていくことが必要かもしれません。


以上、駆け足になりましたが、『ビズケット』(個人出版ビジネス書マーケット)に可能性を感じる理由をまとめてみました。


先日、運営チームや出展者、登壇者が集う機会がありました。

反省点や問題点を口にする人もいましたが、
むしろ多くの人は、次回に向けた新しい展開について熱く語っていたのが印象的でした。

ビズケットは、もう未来に向けて走り始めています。

2020年のビズケットをご期待ください!


【蛇足なコメント】
なお、既存の出版社にいる人間の立場から見ると、
ビズケットのような「CtoCの場を、出版社が主催する側に回るかどうか」が、
後に振り返ったとき、大きな分岐点になると考えています。

出版社は昨今、なるべくリスクを取らない、着実に小銭を稼ぐ方向にどんどん向かっていますが、このフィールドには大きく投資する価値があると思います。

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