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『ユートピア』singing dog

2021年10月5日(火)18時開演
@下北沢 劇・小劇場
3,500円(最終日割)

singing dogは今回初見の団体さん。実はここの旗揚げ公演『ブラックアウト』も井内くん目当てで予約はしていたんだけど、上演の直前に新宿の小劇場でクラスターが発生したりして、迷った末にキャンセルしてしまったのだ。評判が良かった様なので、観られなかったのが残念。
その後も世の中の状況は悪化するばかり。今回は配信を観るつもりでいたんだけど、配信期間までに見る時間がないことに気づいた。え、短くない?! また観られない・・・と一瞬がっかりしたけど、そうか。新宿でマチネ観た後に帰宅したら配信には間に合わないけど、下北沢に行けば観られるじゃん。という訳で急遽、当日券で観てきた!

この世に生まれてくることってなんだろう…。
どうしてこんなにうまくいかないんだろう。
元凶はすべて父さんだ。
僕という人間が構築されてしまったのは、みんな父さんのせい。
でも、果たして本当にそうなのだろうか。
未だに僕を悩ませる父さんが構築されてしまったのにも、
なにか元凶があったはず。つきなみなことを聞くよ。
幸せってなに? 人生って一体なに……?
親とは? ファミリーとは? 自分とは?
ひとつの家族を通して描く、人生と日常にもがきながら生きる人間たち。
少しだけ温かくコミカルで、それでいて胸に刺さる物語。

家族の話って刺さるよね・・・
それこそ十人十色、人の数だけ違う家族のカタチと思いがあるんだろうけど。

亭主関白どころじゃない超横暴な独裁者の「お父さん」
それに口答えせず黙々と家事をこなしてきた「お母さん」
父の期待に応え成績優秀で一流企業に勤める「兄さん」
女の幸せは良いお嫁さんと刷り込まれた「姉さん」
勉強もできず父の叱責を受け続けた「ぼく」

父の抑圧に耐えかね子は独立して家を出、母は心不全で急逝。父は飼い犬のコロッケとの二人暮らしだったが、がんを患い手術したという知らせを受け、きょうだい全員が久しぶりに実家で顔を合わせる。きょうだいと、姉の連れてきた彼氏とで語り合った夜。

独裁父がめっちゃ腹立たしくて、心底「ぼく」に同情したわー。ババ抜きで小三の子を追い詰め自分が勝とうとするなんて、大人気ない!
けど独裁父には愛情があったんだよね。自分が経済的に苦労してきたから、頑張って働いて家を建てて。子どもたちには、自分がした苦労をしないで済むようにと育てた。
だからって愛せるかと言ったらノーだよねえ。愛したから愛し返せなんて無理。他人の心が判らない人なんだな。かわいそうだけど。

お父さん役の板垣さん、相変わらずの良い声なだけに激昂するシーンは怖かったなあ。憎さ百倍。あちこち客演で拝見してるけど、所属の劇団は観たことないのだった。

お母さんは家事をこなすために一家の団欒にも加わらず、三人の子どもを育てあげてすぐ亡くなった。不憫な印象だったけど、パート先の社長と不倫していたらしい。気づいた上ふたりの子の気持ちも複雑だろうし、実際はどうだったんだろうな。
姉役の俳優さんが母役と二役演っていて、どちらも素敵だった。

アタシもまあまあ家族には思うところがある方だけど、この一家とはまったく違う意味で大変だった。言うなれば真逆? 父は人の良い朗らかなひとだったけどお金にだらしなく、生活費を入れないどころか作った借金を全て母に押し付け、自分は女と逃げた。
だからお金をキチンと稼いだ独裁父はえらいしすごいと思うよ。腹立たしくてもね。

閑話休題。
とはいえ話は重いばかりでなく、クスッと笑えるところもちょいちょいあって。
三人が落花生を食べながらおしゃべりするシーン。本当に延々と食べてるのが絶妙なおかしみを誘うよね。殻を剥くのがちょっと苦手な兄とか。
大輔くん(姉の彼氏)のいい人そうだけど情けな〜い雰囲気は、ヘビーになり過ぎないちょうど良い具合に働いて。無職で宿無し、本当に甲斐性なしの彼が、立膝ついて指輪のケースをパカっとやるプロポーズのシーンは良かった。
パカっとやったら指輪は入ってなくて、お金がなくてケースだけ。指輪はゆくゆく買いますっていう。ほんと情け無いんだけどかわいいらしいというか、これから本気で頑張れよ!って思った。お幸せに。

翌朝、病院のベッドで寝ているお父さんを四人が見下ろしているシーンで、幕。
彼らはどんな話をするのかな。色々な余韻を残したラストは、誰かと一緒に観に行ってたら話が弾んだんじゃないかなあ。
お父さんが少しは人当たりが良くなって、コロッケがいなくてもきょうだいと普通に話ができる様になったらいいんだけどね。
アタシもいつか父と会うことがもしあったら、どんな話をするだろう、なんて考えた。

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