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ジュヴナイル

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御違様

御違様

 私が家出を決めたのは、お母さんがお母さんではなくなってしまったからだった。

 少し前から、何かがおかしいとは思っていた。具体的にはそう、例えば、今年の私の誕生日。
 その日、6月6日は朝から雨が降っていて、私はちょっと残念な気持ちだった。お誕生日会は晴れが良いに決まっている。放課後までに雨がやんでくれるといいけど、と思いながら布団をでて、着替えをしてから私は一階のリビングへと降りていった。

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良い子の食卓

良い子の食卓

 いつもの緊張感。

 テレビのニュースだけが響くしんとした食卓で、七緒は箸を取った。
 窓から刺す温かな日差し、微かな小鳥の鳴き声。七緒の目の前にはあじの干物とご飯と味噌汁が並んでいる。目の前にはパパが座り、おかあさんがぱたぱたと忙しくキッチンを行き来する。さわやかな、朝の食卓。
 でも、また。
 そこにいつものように、ぴりぴりとした緊張感が漂っているのを肌で感じる。七緒はそれを壊すように大きく

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足下の花

足下の花

 ぬるい夢から覚めた。

 いつから目を開いていたのか、ふと気付くと私は厚い遮光カーテンの隙間から強い日差しが漏れているのを見詰めていた。
 目覚めから少し遅れて、目覚まし時計の甲高い音が鳴り響く。
 煩い。
 頭の上まで布団を被り、何度も寝返りを打ちながら私はベッドの中で身悶えした。鈍い圧力。鉛の塊りに静かに押し潰されるような痛みを下腹の奥に感じる。
 生理の朝はだるい。
 目覚まし時計を止めな

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神様がいる場所

神様がいる場所

 神様、どうかわたしを助けてください。

 学校は嫌いだ。
 別に、すごく勉強ができないとかそういうことじゃない。さして秀才というわけじゃないけれど、どちらかと言えばむしろわたしは勉強は好きなほうだと思う。学校がすべてただ勉強する時間のみで構成されていれば良いのにとすら最近は思う。
 いま、わたしがいやなのは、休み時間だ。
朝、授業と授業の間の十分ずつの休憩、昼休み…拘束されていない時間が長いほど

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