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風邪は誰のもの?

風邪というのは、熱が出たり、鼻水が出たり、くしゃみが出たり、そんな苦しさや煩わしさだけでなく、会社や学校を休まなきゃいけないという問題が出てきます。仕事の進捗上休めない状況だったり、もう有給が残っていなかったり、大事な行事ごとや用事にいけなくなったり。そんな時に、多くの人が、ベッドの上で、時間があるからこそ、ちょっと思いを馳せちゃうのが【誰がうつしたか】問題です。

あれは高校の時でした。私は剣道部に所属しておりました。大事な大会の前だったのでしょうか、顧問の先生がピリついていたタイミングだったでしょうか。私は風邪をひいて休みました。ギリ昭和生まれ平成育ちです。あの頃は、まだ部活を休むってかなりの勇気がいる事でした。「休ませてください」そんなセリフを心臓バックバクで先輩や顧問の先生に連絡の電話をしなきゃいけないくらいなら、休まないで無理して部活に出たほうがマシです。言ったところで「わかった。お大事に」の言葉に全く心がこもっておらず、言葉の後ろ側がスッケスケだからです。「は?休むの?自己管理なってないんじゃねーの。全く。これだから・・・」そんな言葉の後ろ側が手に取るようにわかる「わかった。お大事に」だからです。いやいや、そんな副腎疲労たまるような練習の仕方、追い込み方してたらそりゃ部員が、ほら、順番に風邪ひいてますよね?と理学療法士であり施術家である今なら思います。けど、そんなことは関係ないのです。ギリ昭和生まれ、平成を生きる高校生。まだ部活中に水は飲んで良い時代だっただけマシです。

話を戻します。私は風邪をひきました。そんな時に顧問の先生だけではなく、もう一人ピリついている存在を感じておりました。それはキャプテンの子でした。もう一回言います。ギリ昭和生まれです。あの頃はそんな部活の顧問の先生も、もれなくキレッキレで、手が出る事も竹刀が出る事も木刀が出る事もあった時代です。「え?」とか「は?」とか今なら言える令和の時代。あの頃はそんな言葉を飲み込んで耐え忍ぶ「理不尽」の部活時代。そして、当校ではターゲットと呼ばれる儀式がありました。一定期間、顧問が鍛えたい子や弛んでる子を集中砲火。明らかに今は誰ブームなのかがわかるレベルです。ある種、嫌なエコひいきが始まるのです。私が風邪をひいた時、同学年のキャプテンの子はそんなターゲットの最中におりました。もれなくそんなターゲットに選ばれし者たちは暗い表情と思い詰めた毎日を送るのです。もちろんストレスがたまリます。中にはハゲた部員もおります。高校生が大好きなはずの部活に精を出しながらハゲるとは。とんでもな時代でしたね。そんなまさに今、ターゲットに選ばれしものであり、ストレスフルで悪霊10匹くらい飼っていそうな表情のキャプテンの彼女に私は個人的に呼び出されたのです。

「風邪ひいたのみゆきのせいだからね。」
一瞬だった。私と彼女の間で時が止まりました。言った方、言われた方、同時に心の中に「ん?」という不思議な間ができました。剣道部ですから。間にはうるさいですよ。確かに感じたのです。変な間。そして苦笑い。けど、ここで引っ込むわけにはいかない彼女は続けました。私の後に風邪をひいた、今大事な時期なのに風邪をひくなんて、どうしてくれるんだ。そんな内容だったと思います。しかし、確かにその最初の1文からしどろもどろなのです。トークの説得力、言葉から感じる意志、それらは皆無でした。

その時期、次々と部活内だけでなく学校内でも風邪はが流行っていて欠席者を出していました。私の頭を駆け巡る想い「そうかもしれない、しかし、そうじゃないかもしれない。私は今、なぜ、なんの件でこの子に怒られているのだろう。」複雑でした。しかし、彼女の状況は熟知しています。ただ、言葉を受け取り、飲み込む。なんの時間なんだ。そういう思いもシャットダウン。言うべきだ。そう判断し、「ごめん。」魔法の言葉を私は不器用に口にしました。我ながら大人な対応でした。しかし、その言葉には、先ほどの部員の休みたいとの言葉に返す「わかった。お大事にね。」並みに心はこもっていませんでした。しかし、功を奏して、最後にはよくわからないまま、その子ははにかんだ笑顔で「いや、私も悪かった。」と和解したのです。わかってる。わかってるんだよ。大丈夫だよ。わかった上で耐え忍んだ時間でした。

そんな私は最近、風邪をひきました。エアコンにやられたんかな?と咳をしている彼とデートし、次の日に彼は高熱です。その2日後くらいに私も風邪をひきました。「なんかごめん。」そうLINEが来ました。節々の痛みに堪えながらベッドの上でこの苦い思い出を思い出したのです。そんな私は「ウイルスにキミの名前は書いてないのだから、謝られる覚えはない。」そんなイケメンなセリフを送ってみたのでした。


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